朝日新聞 特集【#がんとともに】

朝日新聞公式Instagram【#がんとともに】の特集で、ZINE作家として続けている「掌(てのひら)の記憶」の紹介がはじまりました。

29歳で絨毛がんを経験したのが、今から4年前。抗がん剤がはじまったのが、まさに4年前の今日でした。そしてがんになって初めて痛感した、患者と支える家族それぞれの孤独や言葉にできないつらさ。経験者として何かできることはないだろうか?と、寛解後からはじめたのが「掌の記憶」です。

依頼主の“大切な記憶”を豆本におさめて贈るというささやかな活動。依頼主の暮らす町へ赴き、ご本人や家族の“大切な記憶”を聴きながら写真におさめる。そして掌におさまる小箱入りの豆本にして贈り、依頼主と綴じ手の2組だけで持ちあいながら手渡しの関係で記憶を繋いでゆく。一人ひとり、1冊1冊。展示や日々の暮らしの中での出会いから、静かに続けています。


朝日新聞「まちの埋蔵文化人」(2016)

2016年夏、この活動を初めて取りあげてくださったのが朝日新聞さんでした。3年目を迎えて28篇となったお話の中から、選んでくださった4篇が紹介されます。掲載する写真の選定から添える文章まで本当に丁寧に考え、それぞれの記憶を大事にしてくださっています。

依頼主の暮らしている町も年代も、記憶を預かることになった経緯も、大切にしているものも本当にさまざまな小さな本。文字や写真という目に見えるかたちで記されているものは、お預かりした記憶のほんの一部ですが……その余白にこめられた一人ひとりの“生”を感じ、何かを交わしあうきっかけになれば嬉しいなと思います。これからも一人ひとり、1冊1冊。見守っていただけると嬉しいです。

掌の記憶 花小金井篇」(2016)

実を言うと「掌の記憶」のアイデアを練りはじめた頃、がんの経験者やご家族からのご依頼だけを承る活動にしようと考えていたこともありました。ちょうど寛解後1年が経とうとしていた頃。今思うと、がんで失ったものやつらい経験は無駄じゃなかったんだと言い聞かせるように、それだけを見て制作することで自分自身を納得させようとしていたところもあったように思います。

でも闘病中の記憶を綴じた『かぞくのことば』や祖母の遺品を綴じた『otomo.』を展示して手にとってくださった方の声を聴くうちに、考えが変わっていきました。がんであってもなくてもつらい経験はさまざまあって、共通するものもたくさんある。むしろがんよりも報道やアクションがされていない病気や障がい、事件事故災害もたくさんある。今綴ると当たり前のことなのですが、がんという経験にのまれていた頃はそんなことはすっかり見失っていました。がんの経験をオープンにすることで、結果的にはがん以外の経験を持つ方との出会いも広がり、預かっては贈り、触れ合う中で育まれてきたのがわたしにとっての「掌の記憶」です。

連載「まなざし」を綴じる(日本看護協会出版会)より。大切な豆本

朝日新聞デジタル「がんとともに-ネクストリボン」は、今回のお話をいただく前から記事が公開される度に読んでいました。がんに関する特集は気になり良く読むのですが、さまざまな角度からの記事が「がんとともに」という言葉で共にあって、一人の経験者として読んでいても不思議な居心地が良さがありました。立場もそれぞれ、価値観や捉え方、アクションもそれぞれ。

わたし自身は、まだまだ患者や患者家族としての治療経験に基づく視点から見てしまいがちです。だからこそ、さまざまな視点に触れながら、経験者とは違う立場の人の気持ちも想像しながら繋いでいく一人でいたい。これからもその気持ちを忘れずに一緒に考えていきたいなと思っています。紙面やデジタル版の特集と合わせてご覧いただけると嬉しいです。

bookstand03

「掌の記憶」秋ごろに関西で展示の予定です

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