2017-12-17

本とわたしの記憶 ― 3. 忘れられないことば

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新潟県のひすい海辺で拾ったハートの石

ZINE作家のmichi-siruveです。小さな頃から本が好きで、いつもお気に入りの本を抱えながら暮らしてきました。そして今は、患者家族・遺族・そして若年性がんのサバイバーとしての経験から“記憶”を手づくりの小さな本に綴じ、手渡す活動を続けています。

病の経験と本づくりについてのお話は、今年1年をかけて連載「まなざしを綴じる」(教養と看護)で綴らせていただいたのですが、来年1月からblackbird booksさんではじまる展示「汀の虹」に向けて、もう少し個人的な自己紹介を兼ねて「本とわたしの記憶」から、5つのこばなしをお届けします。

1. 好きな本
2. 製本の先生
―3. 忘れられないことば
4. “声”を綴じ、“声”を聴く
5. そして、本と花のこと


「本とわたしの記憶」 ― 3. 忘れられないことば

わたしが“記憶”をテーマにZINEの制作をはじめたのは、今から3年半ほど前のこと。20代最後の年に若年性がんを経験し、残りの人生「何を綴じ、誰に届けようか」と問い直したことがきっかけでした。第3話では、その問いと向き合う中で道標となった「切実」そして「自分のこと」という2つの“忘れられないことば”の記憶をご紹介します。

青山先生の課題で提出した「一丁目一番一号」という文章。亡き祖父との記憶を綴ったものでした

「切実」と「自分のこと」。書くことを生業にしている人に限らず、生きてゆく中で誰しもが抱いたり、触れたりしているものに通じることばのようにも思います。わたし自身も10歳の春に故郷を離れて阪神・淡路大震災後間もない町に越し、その後の15年間をそこで過ごしながら抱いてきたものがあり。家族が寝たきりになり、入院や在宅介護を通して命の現場を見つめ。東日本大震災の日は東京にいて、津波というものが奪ってしまったものの大きさにことばを失い。身内をがんで亡くした半年後に自分もがんになり。さまざまな場面で切実に感じ、また他者の切実さの輪郭に触れ、でもできないことだらけでした。それに対して“本”の力を借りて何かできないものかと、10代の終わりから想いを巡らせていました。

そんな時、最初の道標になったのが「切実」ということば。今から4年前、がんになる1年ほど前に通っていた編集とライティングの学校で、講師の青山ゆみこ先生がおっしゃっていたことばでした。自分が切実に感じているものを書かなければ、相手の心に届くものにはならない。青山先生の声の響きとともに届いたその「切実」ということばに、自分の表現に欠けているものを痛感しました。正確には、切実さ自体は心の内に抱えていたからこそその学校へ飛び込んだのですが、それを冷静に見つめ、他者の抱える切実さにも通じることばを見つけることは、当時のわたしにはまだできていなかったのだと思います。

それから約1年後、がんを宣告された翌朝病室のベッドで、ふとそのことばを思い出しました。遅かれ早かれまわりの人よりうんと先に死ぬのだろうという実感は「切実」ということばとの距離をぐっと縮めてくれたのかもしれません。暗い道を歩む足元を照らす灯火として、いつもそばにあるように思います。

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ZINE『ココロイシ』海辺で拾った石の内側に、ことばが綴じこめられています

もう一つの道標は「自分のこと」ということば。これは1年前の秋、イラストレーターの小池アミイゴさんの一本の線から始まるストーリーというワークショップに参加するために富山の音川という集落を訪れた時、アミイゴさんからいただいた一言でした。

訪れた土地で出会う景色や一人ひとりの声に耳を澄まし、見つめ、絵を描き、展示をし、また絵の前で語る人の声に耳を澄ます。時にはワークショップというスタイルで、その土地のこどもやおとなたちと“絵を描く”ということを通して対話を重ね、描き手が表現の種が芽を出す場に立ち会う。そんなアミイゴさんの描く絵、紡ぐことば、積み重ねている対話の足跡に心動かされて訪れたのが、富山の友人の故郷 音川でした。

その頃のわたしはがんの治療を終えて2年が経った頃で、まだまだ病気のショックを引きずっていた霧の中の日々。ワークショップでも“楽しかった思い出”の景色が思い出せず、塗り重ねたのは白ともグレーとも言えないどうしようもない灰色でした。そんな大阪からの参加者のわたしを見て、2日間をともにしながら、ご自身の人生で今まで起こった出来事や、訪れた土地で出会った一人ひとりから感じたことを一つひとつ、わたしに向かって投げ続けててくださったアミイゴさん。最後にそっと置いてくださった一言が「本当に表現したいのは、自分のことじゃないかな」ということばでした。そのことばを掴んで関西に戻り、少し時間を置いて若年性がんにくるしんだ「自分のこと」を綴じたのが『ココロイシ』というZINEでした。

目の前で耳を澄ませてくれる人がいて初めて「自分のこと」を声に出すことができる。その声を受け止めてもらって初めて気づくこと、距離を置いて見つめられることもある。聴き手の「自分のこと」を二人のあいだに置くことが、語り手が「自分のこと」を語る呼び水にもなる。そんな一人ひとりとの対話を地道に積み重ねることこそが「自分のこと」の中にある「自分以外の人も抱えていること」を見つけてゆく道筋になる。そんなことを、アミイゴさんから教わったように感じています。

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『ココロイシ』を読んだ方の声から生まれた『汀の虹

そのような経緯で“忘れられないことば”となった「切実」と「自分のこと」。ことばをくださったお二人とはその後も何度かお会いする機会があって、その時々に道標となることばをいただいたり、お二人が日々それぞれに綴られていることばを受け取ったり。出会った一人ひとり、起こった出来事の一つひとつをしっかりと受け止めながら生きているお二人から、たくさんのことを学んでいます。

そんなこんなで第3話目のこばなし“忘れられないことば”。目の前のことをしっかりと受け止めながら生きているお二人の声とともに届いたことばだからこそ、特別な響きをもって記憶しているのかもしれません。またまた読んでくださった皆さま、ありがとうございました。次回は「4. “声”を綴じ、“声”を聴く」。本が抱く“声”、そして本から生まれる“声”についての記憶をお届けします。

michi-siruve  exhibition「汀の虹」

「小さな詩と花、お贈りします」

“心の揺らぎ”を綴じた豆本詩集『汀(みぎわ)の虹』。本におさめた小さな詩と花を、blackbird booksの白い壁一面に浮かべます。作家在廊時は壁からお好きな詩と花を預り、その場で本に綴じてお贈りする“Book”と“Box”の制作も承ります。本屋さんの片隅で、本づくり。本に触れた方の声を預かるために、あなたの一冊をお贈りするために、静かにお待ちしています。

※在廊日はお知らせページ、およびFacebookイベントページで後日お知らせします。

開催期間
2018.1.16(tue)~1.28(sun)
平日11:00~20:00
土日祝10:00~19:00 ※月曜定休

開催場所
blackbird books
〒561-0872 大阪府豊中市寺内2-12-1 緑地ハッピーハイツ1F
TEL  06-7173-9286
北大阪急行(御堂筋線) 緑地公園駅より徒歩5分
http://blackbirdbooks.jp

 

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michi-siruve (みちしるべ)

ZINE作家。“記憶”を小さな本に綴じています。「掌の記憶」豆本詩集『汀の虹』など。>>詳しくはこちら

Exhibition

2018 『汀の虹』展示 @blackbird books (1/16-28)

2018  「ZINE DAY TAIWAN」@RETRO印刷台湾店 (3/3-4)

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