【Report】「記憶のアトリエ」in 富山

2018年8月12日(日) 富山県内のお家で「記憶のアトリエ」をひらきました。

富山駅から高山線に揺られて数駅。立山連峰が遠くに見える音川というのどかな集落にある、とやまの木にこだわり建てられた温かくて明るいお家。今年の春「記憶のアトリエ」の案内文を公開した時、「ぜひ、家で。」とメッセージをいただき、大阪からトランクを抱えて電車を乗り継ぎ伺いました。

今から3年前「掌の記憶」の取材で初めて訪れた音川。当時大阪で暮らしていたなおみさんからのご依頼で、彼女の故郷  音川で暮らすおばあさまの「大切な記憶」を綴じる取材旅でした。

その音川に、わたしががんになる直前の2013年に制作したZINE『母のまなざし』を知っている友人がいると案内され伺ったのがこのお家。家族の記憶を綴じた本を読みあいながらたくさんお話をし、薪ストーブで煮込んだホクホクのポトフをお腹いっぱいご馳走になりました。翌日は一緒にお餅をついて食べて、とても思い出深い取材旅でした。

連載「まなざしを綴じる」第4回(2017)より

それからもささやかな交流が続いて1年半ほど経ったある日、お父さんから「掌の記憶」のような豆本をとご依頼をいただきました。家族の思い出が詰まった写真を、家族が持ち合うことのできる豆本に。連載「まなざしを綴じる」でもご紹介した、入院が決まったお母さんと帰りを待つ子どもたちが、それぞれ御守りとして持ち合うために制作した豆本です。

お母さんのご病気はわたしと同じ「がん」でした。ZINE作家として、がん経験者として、そしてZINEを通じて出会った友人として何ができるだろう?ブログにアップされるご家族の写真を見つめながら、時々近況を受けとりメッセージを交わしながら、少しでも状況が良くなることを切に願う日々でした。

お母さんの「一日でも長く家族のそばに居たい」という強く切実な想い。そして家族への深い愛情とあたたかい笑顔。その姿は遠くの町で心配するわたしの心にも強く届くものがありました。

のちにお父さんが公開されたお母さんのメッセージには「少しでも長く子どもたちの側にいて、記憶に残りたい!と思っています。」と記されていました。そのことばをわたしなりに受けとり紡いだのが「記憶のアトリエ」の案内文でした。

ほどなくこのメッセージを受けとったお父さんからアトリエのご依頼いただき、そのやりとりを見たなおみさんもメッセージをくださり、1冊のZINEがつないだ3人がふたたび集う「記憶のアトリエ」の開催が決まりました。

今年の春、静岡で開催したアトリエは、病院に隣接した空間。がんを経験された方、ご家族やご友人、病院や地域の医師や看護師、薬剤師の方々がお越しくださいました。

今回はご家族が暮らすお家。家族の記憶が積み重なる場所で、集まる人もご家族の親戚やご友人、ご近所の方々です。なるべくいつものお家の雰囲気が保てるよう、素朴な場づくりにしました。

1階奧の静かな和室に本を並べて「大切な記憶」にゆっくり触れる空間に。わたしが持参した手製本は半分ほどにきゅっとまとめ、残り半分はご夫婦がこの10年間で制作されたフォトブックを家じゅうから集めてずらりと並べることに。結婚や出産の記念、そして治療中……お父さんからお子さんへ。お母さんからお子さんへ。お母さんからお父さんへ。それぞれに家族のまなざしが宿った写真、そこに添えらえれた声、家族の記憶が溢れていました。

豆本を取り出し設営をしていると「掌の記憶」をみた子どもたちが「鞄に入ってるよー」と、それぞれ鞄の中から豆本を取り出して持ってきてくれました。桜色に染めた娘さんの豆本。空色に染めた息子さんの豆本。どちらも表紙はくたくたに馴染んでいて、でもお母さんとの思い出が詰まった写真のページは綺麗なまま。2人の年齢を考えると「大切な御守り」として持ち歩き、大事に触れてくれているのがよくわかる手触りになっていました。「大事にしてくれてありがとうね」と胸がいっぱいになりました。

本づくりの道具を大きな木のテーブルの上に広げると「本つくるー!」と子どもたちが集まりアトリエのはじまり。「どのかたちの本にするー?」「クレヨンと色鉛筆と絵の具とペンもあるよー」「シールと押し花と封筒もあるよー」アトリエにある道具や素材の説明をすると、子どもたちはどんどん手にとり自由に本づくりをはじめます。

しばらくすると近所の子どもたちも合流して、あっという間に賑やかなテーブルに。それぞれの「やりたい!」に耳を澄ませながら、一緒に道具や素材の島をジャンプしながら、道具や素材を思い思いに使い分け、自由に物語を綴っていきました。

1冊綴り終える頃にはすっかり打ち解けて「みっちゃーん!」と呼ばれては、梯子でしか登れない3階のロフトまで連れていってもらったり。ハンモックに乗せてもらってはぐるんぐるん回されたり。「大事なもの」が入った宝箱を見せてもらったり。近所の子どもたちも一緒に大騒ぎでお風呂に入ったり。子どもたちの笑顔と、その様子を見守る大人のみなさんの優しいまなざし。そして明るくあたたかいお家の空気に心も身体もあたたまります。

子どもたちが本づくりや遊びに夢中になっている間にも、ご友人やご家族が途切れることなく訪れてくださいました。奥の和室で本1冊1冊に触れながら、テーブルを囲んで語り合いながら、静かな時間が流れていました。

子どもたちの本づくりの様子をみて、訪ねてくださったご友人も「メッセージをのこしたい」と本を綴じてくださいました。デザインの相談にのりながら、訪れたみなさんが一人ずつメッセージを綴り、1ページずつにおさめて1冊の本に。今日ここに集ったみなさんの記憶として、お花とともにお供えしました。

住み慣れたお家で、会いたい人と時間を気にせずゆっくり過ごす。記憶に触れ合い、語り合う。一つの食卓を囲み、みんなで作って食べて片づけて。虫の音を聴きながら、焚火の炎を見つめながら、夜空を見上げながら。そんな時間を振り返り、ご家族は「やさしい時間でした」と綴ってくださいました。

言葉にならない沈黙もともにしながら、言葉にしきれない想いを交わしながら。そんな時間を一緒に過ごす機会をいただけたこと、集ってくださったみなさんに「ありがとう」とお伝えしたいです。

大阪に戻ると、手製本を持ち帰ってくださった方々から記憶を綴じたZINEの写真が届きました。過ごした時間もそのあとも、ささやかでも交わしあえる関係が続いているのは本当に有り難いこと。これからも、今日という日を交わしあうことを積み重ねていけたらと思います。「ありがとう」と「これからも」今はそんな気持ちです。

次回のアトリエは、また静岡で11月3日の開催予定です。これからも「記憶のアトリエ」をよろしくお願いいたします。

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