2019年6月22日(土)、宮城県石巻市のがん哲学外来 日和山カフェさんからお声がけいただき、カフェのゲストとして「想いを見つめる」というテーマで、おはなしと対談をする機会をいただきました。
伊丹空港から仙台空港へ飛び、仙台駅から高速バスで石巻へ。バスを降りると、日和山カフェ副代表の西村和佳子さんが迎えてくださいました。
和佳子さんとは1年前の春、国立がん研究センターの患者・市民パネルのパネル仲間として出会いました。
全国から100名近くの方々が集まる大きな会の、トイレの洗面所でたまたま隣り合わせになったという縁。どちらともなく「こんにちは」と交わした一声がはじまりで、和佳子さんが石巻からいらしていることを知り、OCICAの取材で牡鹿半島を訪れたことなどをおはなししながら意気投合。その時わたしはパネル1年目。和佳子さんは4年目ということもあり、知人がおらず緊張していたわたしにいろんな方を紹介してくださいました。
その後も、大阪と石巻という離れた町で暮らしながら、SNSを通してお互いが日々感じていることなど共有していました。
大阪で大きな地震が起きた時は、心配するメッセージをくださったり。近所に暮らしている方が心配になり、災害時の障がいのある方へのサポートについてどんなものがあるのだろうかと友人向けに投稿して尋ねた時も、東日本大震災の経験や情報を教えてくださったり。
遠くにいても近くに感じるあたたかさをいつもいただいていました。
ぐっと距離が縮まったのは昨年の夏。わたしが親子で思い出を綴る豆本ワークショップのためのサンプルづくりを募集した際、和佳子さんがメッセージをくださったことがきっかけでした。
絨毛がんになり出産がかなわなかったわたしには、子どもがいません。仕事として親子で参加できるZINEワークショップのご依頼をいただくことが多いのに、子どもが作った本のサンプルを用意することができないのがいつも悩みの種でした。
それまでは何とかサンプルなしでやり過ごしていたのですが、やはり子どもたちが綴じてくれた本もアトリエに置いておきたいな。そう思い立って友人に向けてサンプル制作のお願いを投稿した時、連絡をくださったおひとりが和佳子さんでした。
「豆本、申し込みもういっぱいですか? 我が家の娘たちはお話づくり大好きなので」
とてもうれしくて、すぐに制作用の真っ白な豆本をお送りすることに。「子ども宛だと嬉しいです」という一言からも、娘さんたちへの想いが伝わってきます。
その後も豆本が届くまで、和佳子さんのご家族への想いや、今も大切にされているご家族からの誕生日プレゼント、手紙への思い入れなど…ご家族を、そして一緒にいろんな体験をすること、書き綴ること、交わすことを大切にされている和佳子さんの想いにたくさん触れることができました。
後日、娘さんたちが作ってくださった2冊の豆本が届きました。真っ白だった本に、おふたりそれぞれのリズムや色で、ご家族の思い出が彩られ、和佳子さんが織ったさをり織りに包まれていました。やりとりの一つひとつがとてもあたたかくて。豆本を機に距離がぐんと縮まり、ささやかな交流が続きました。
翌2019年1月、和佳子さんがスタッフとして石巻で関わっていらっしゃる「がん哲学外来 日和山カフェ」が1周年を迎えたという投稿を見かけて。毎月1回、スタッフのみなさんやお越しくださった地域のみなさんと少しずつ場を育まれている様子にじんとくるものがありました。
「和佳子さんがスタッフのみなさんと大切にされている日和山カフェ、いつか行ってみたいです」
その時わたしが送ったひとつのメッセージがきっかけで、今回ゲストとしてお伺いすることになりました。
日和山カフェの会場になっている多目的ホール「ここひろ」は、石巻の住宅建築会社ヒノケン株式会社さんのオフィスの2階につくられたコミュニティスペース。震災以降、地域の交流の場が少なくなってしまったみなさんが利用できるよう、低料金・予約制で地域にひらいていらっしゃるそうです。
高い天井に大きな窓、木のぬくもり、大きなキッチンと冷蔵庫。駐車場やエレベーターもあり、どなたでも安心して利用できる心配りに包まれた空間でした。
カフェの案内看板、柔らかいスリッパ、ロゴの入ったマグカップ、あたたかい飲み物、冷たい飲み物、氷、お菓子、テーブルを彩る小さなブーケ、ニックネームを記す名札、パソコンやプロジェクター……日和山カフェの空間をつくるものは、スタッフのみなさんで手分けして準備し、毎回持ち込み。来てくださった方に少しでもあたたかい気持ちになってもらえたら。そんな想いがひとつひとつのものに宿っていました。
「毎月開催する」ということを続けるだけでも大変なことなのに、1回1回、ひとつひとつ心を込めて。そのためにできることを精一杯続けられ、丁寧に場を設えていらっしゃいました。
日和山カフェのロゴマークに込められた想い
「遠くからよくお越しくださいました」
と、笑顔で迎えてくださったのは、日和山カフェ代表の佐藤京子さん。石巻赤十字病院の看護師として、そしてがん相談支援センターの専門相談員として、病院の中で患者さんやご家族と向き合ってこられた京子さん。病院の外にも場をつくる必要性を感じて、病院を退職された後、想いをともにする方々と日和山カフェをはじめられたそうです。
和佳子さんも、数年前にがんが判った時、職場の方の紹介で京子さんの元へ相談に行って以来の関係。病院の中で、そして今は病院の外で、ひとりひとりを迎えることを続けている京子さんのあたたかい思い出をたくさん教えてくださいました。
京子さんとご挨拶をした瞬間、わたしも初めましての距離を飛び越えるようなことがありました。その日わたしが履いてきたふわふわのロングスカートが、京子さんと色違いだったのです。2人でひとしきり驚いて、そのスカートは娘さんが選んでくださった娘さんのお洋服であることを知りました。
お会いする前からわたしの日々の投稿などご覧くださり、どんな想いで暮らしているのか感じてくださっていたそうで。わたしの雰囲気を見て、娘さんがコーディネートしてくださった服だったのです。
カフェに集うであろうお一人おひとりのことを思い浮かべながらお迎えする。そんな細やかな心配りを、当たり前に積み重ねて来られた京子さんだからこそ、こんな一致が起こったのだろうなと。その心配りを感じました。
和佳子さんが準備されていた、小さなウェルカムボードと模造紙に描かれた大きな天の川。どちらも娘さんたちと一緒に手作りされたそうです。
「あまのがわ ほしのかずだけ ゆめかなう」
娘さんが考えたという俳句。その一句に、日和山カフェにお越しくださるみなさんや、カフェを運営されているみなさんへの想いを感じます。お越しくださったみなさんも、その天の川の前で感じたことを語りながら、それぞれの願いを星に書き綴って天の川に浮かべていらっしゃいました。
カフェ当日、その場にいるのはスタッフのみなさんだけですが……その場には参加していない方々も、それぞれの方法でサポートしながら参加されていること。カフェにお越しくださったみなさんもまた、それを感じていることが伝わってきました。
「よりそい」「沈黙」「笑顔」
今回の日和山カフェは「想いを見つめる」という会。わたしと和佳子さんが、がん経験者としてそれぞれ感じてきたことと、この3つのことばから思い浮かぶ「想い」を見つめて語り合い、お越しくださったみなさんで語り合うカフェの時間につなげる流れでした。
このサインも、それぞれのテーマをはなすときに掲げられるように和佳子さんの娘さんが今回のために書いてくださったもの。ことばだけを伝えて、あとは娘さんにすべて任せてこの絵になったそうです。
「笑顔」には日和山カフェのモチーフでもある、それぞれの色の円(縁)があしらわれていたり。「よりそい」には、涙を流す人のそばで、あたたかな笑顔でよりそう人が。日々感じているいろんなことを、絵に込めてくれたのかもしれないなと思いました。
当日はあいにくの雨模様でしたが、がんを経験された方やご家族、石巻赤十字病院の先生や看護師さん……みなさんお集まりくださいました。
代表の京子さんのことばからはじまり、まずはわたしと和佳子さんの体験談を。病名も、今まで歩んできた道も、暮らしている町もそれぞれですが、共通する想いもありました。
3つのキーワード「よりそい」「沈黙」「笑顔」は、ひとりではできないこと。誰か相手がいてはじめてできることかもしれないというはなしもしながら、みなさんで語り合うカフェの時間へ。
「東京生まれと書いてあったけれど、東京のどこらへん?」
会場の一番後ろにあるキッチンから見守ってくださっていた鈴木聡先生が、休憩時間に隣に腰かけ、声をかけてくださいました。日和山カフェをずっと応援されている石巻赤十字病院の副院長先生。
おはなししているうちに、鈴木先生とわたしが同じ町の、同じ小学校の出身だということがわかりました。通学路の看板、学校の景色、交差点の角の自転車屋さん、商店街のお豆腐屋さん… それぞれ、この3年以内にお互いその町を訪ねていたこともあり、記憶の花が咲きます。
故郷を離れて25年が経ちますが、同郷の先輩と巡り合ったのは初めてのこと。それが故郷からも遠く離れた石巻の、日和山カフェという場所だった。こんな偶然はあるでしょうか。まわりでその様子を聴いていらした他の参加者の方も「偶然ってあるんですね」と、それぞれの出会いの記憶のおはなしになりました。
「通りすがりのほんの一声でも、挨拶する、ことばを交わす。やっぱり“顔を合わせる”ことからはじまるんですよね」そんな声に、テーブルを囲んだみなさん頷きながら「顔をあげて声をかけてみようかな」と。病院で、町の中で、今日のひとときがあらたな出会いにつながるかもしれません。
がんを経験された方も、ご家族も、医療に携わるみなさんも、初めましての方も。ひとりの人としてテーブルを囲んで、それぞれの想いや生きることを見つめ、お話の花を咲かせて笑顔を交わすひとときがそこに在りました。
どの病院に通っている方でも立場が異なっていても、ひとりの人として出会い、それぞれの想いをことばにしてみたり、想いを聴くことで他の人の心に触れたり。
さまざな事情で病院の中では出会いづらかったり、ゆっくり時間をともにしづらい状況はどの町でもあることですが。病院の外にこのような場があることで、それぞれの暮らし持ち帰ったものが町の中でも少しずつ育まれてゆく可能性も感じました。
2日目は、日和山カフェの想いを伺う時間。代表の京子さんと副代表の和佳子さんの案内で、日和山カフェの名前にもある日和山を訪れました。
出航のための風向きや潮の流れなど「日和」をみる場所という名の町のシンボルでもあり、桜の木々や草花とともに風を感じる、ふとした時に町の人が立ち寄る静かな居場所でもある日和山。
震災が起き、それぞれが大小さまざまな困難を抱える町で、さらにがんも抱えながら生きるみなさんにとって、日和山カフェも日和山のような場所であれたら。そんな想いで立ち上げ、2018年1月から毎月1回続けてこられたというみなさんの想いを感じました。
2年前に一度一人で歩いて登ったことはあったのですが、名前の由来や町での思い出などおふたりのおはなしを聴きながら一緒に歩く日和山は、うんと深く感じることができました。
日和山をあとにして、小さな打ち合わせのために和佳子さんのお友だちが紹介してくださった老舗の喫茶店へ。偶然にも、京子さんが看護学校で学ばれていた頃訪れていた思い出の喫茶店だったそうで、店内の雰囲気もメニューも懐かしい空間。
お友だちのおすすめだというホットケーキを食べながら、日和山カフェのこれまでのこと、スタッフのみなさんおひとりおひとりのこと、これからへの想いなどをたくさん伺いました。
日和山カフェのみなさんとは、これからカフェの想いをこめた小さな制作物をつくります。その相談も兼ねていた今回の旅。
遠くの町で暮らすひとりのがん経験者として、日和山カフェのような場所がこれからも育まれてゆくことを願って、ささやかながら制作のお手伝いをがんばります。
長くなりましたが、日和山カフェを訪れた旅の記憶でした。雨の中お越しくださったみなさん、スタッフのみなさん、本当にありがとうございました。また遊びにいきますね。
帰る頃には雲も去り、一面の青空でした