「本とわたしの記憶」 ― 5. そして、本と花のこと

チョコレートコスモス(花店note / 2017.6

ZINE作家のmichi-siruveです。小さな頃から本が好きで、いつもお気に入りの本を抱えて暮らしてきました。29歳で絨毛がんという希少がんを経験したことをきっかけに、“大切な記憶”を小さな手製本に綴じる活動を続けています。
病の経験と本づくりについてのお話は、今年1年かけて連載「まなざしを綴じる」(教養と看護)で綴らせていただいたのですが、2018年1月からblackbird booksさんではじまる展示「汀の虹」に向けて、もう少し個人的な自己紹介を兼ねて「本とわたしの記憶」から、5つのこばなしをお届けします。

1. 好きな本
2. 製本の先生
3. 忘れられないことば
4. “声”を綴じ、“声”を聴く
―5. そして、本と花のこと

「本とわたしの記憶」 ― 5. そして、本と花のこと

本と花。どちらも人生とともにある、大切なものです。そして我が家からの散歩コースの少し先にあるblackbird booksさんにはそのどちらもがあって、毎月本と花に出会いに行くのが小さなたのしみでもあります。その足跡を辿りながら「本とわたしの記憶」の最後としてご紹介します。

手元にある本のなかから (blackbird books / 2015-2017)

緑地公園駅の近くに「blackbird books」という本屋さんができたのを知ったのは、2014年の秋。がんの治療後間もない頃でした。リハビリを兼ねてよく歩いていた散歩コースの少し先。でも中々距離が伸びず、ようやくお店まで辿り着いたのは翌年の秋でした。

家の裏にある神社の木陰を通り、川沿いを北へ。緑地を抜けた先にある静かな住宅街。初めて訪れた旧店舗は、隠れ家のようなお店がいくつか入ったマンションの一室。階段をくるくると登ると、扉の向こうは小さな本屋さんでした。新刊や古書、書籍やリトルプレス・ZINEまで。佇まいの良い本がぎゅっと詰まっていて、右を見ても左を見ても好きな本。お店の棚の端から端まで、一段ずつ辿ったことを覚えています。

広げると床一面に夜空が広がる、北野武さんの『ほしのはなし』(blackbird books / 2016.12)

毎月通いだしたのは、路面店になった今の新店舗に移転してから。道に面したガラス越しに感じる陽のひかりと、白い壁や馴染んだ木の家具とともに本があって、より一層本の佇まいが引き立つ空間。店主の吉川さんはいつも静かにレジに立っていらして、他のお客さんと居合わせても皆さん静かで居心地が良いのです。

他の場所では何だか気が散って触れそびれていた本も、不思議とここではじっくり出会い直すことができました。“静かな空間”というのは、本の雄弁さをかえって引き立たせてくれるのかもしれない。そんなことを感じながらじっくりと本に触れ、ずっと持っておきたいと感じた本を持ち帰る。一緒についてくるblackbirdの栞も、作業机の止まり木に一羽ずつ増えてゆきました。

とりわけ気に入った本をレジで手渡し「良い本ですね」と一言添えた時「良い本ですよ」と吉川さんが一声かえしてくれたこともありました。慣れ親しんだ散歩道の先に「この人が選んだ」という本だけが並ぶ、静かで心地よい場がある。そのことは、がんという嵐の後、人生のリハビリ中だったわたしにとってはとても有り難く、一番近くにある安心できる場所でした。日に1-2冊、吉川さんが更新されている入荷した本の紹介も含めて、その1冊1冊が「blackbird booksで出会った本」というまとまりをもって少しずつ記憶されていくことも、何だか嬉しいことでした。

一番最初に持ち帰ったシャーレ×flower(花店note / 2016.8)

ある日blackbird booksさんのInstagramで見つけた、丸い透明な器に浮かんだ小さな花。月に一度、blackbird booksさんでお花屋さんがオープンしていて、その時にお店に並ぶ「シャーレ」というものらしい。

闘病を境に「枯れる」「なくなる」ということに敏感で、花からも遠ざかっていたにもかかわらず、その「シャーレ」とやらは何だか気になって。何の花だろう。好きな感じだな。いくつもある。水に浮かんでるのかな。いや違うかな。どうやってこんなに綺麗に浮かんでるんだろう。生花なのかな。枯れるのかな。ドライなのかな。色や配置はこのまま保てるのかな。お花屋さんと仲良しのだろうか……と思いを巡らす日々。

後日「お花屋さんが気になって」とレジで尋ねてみると、花店noteは吉川さんの奥さまが月に一度ひらかれていること、noteの開店日はもっとたくさんのシャーレが並ぶことなどを教わり、2016年8月の開店日に初めて伺ったのでした。

シャーレ×flower(花店note / 2016.8~)

店先と店内に並んでいた、色とりどりのシャーレ。掌におさまるほどの小さく透明な器の中に、大きさや色かたちのさまざまな草花が浮かんでいました。どれも一本芯が通りながらも静かな佇まい。blackbird booksさんの空間が抱くそれにも似ていて心地よく、その時はアナベルやカスミソウの浮かんだシャーレを2つ持ち帰り、作業机の上に置いては眺めるようになりました。

それから毎月、本と花と吉川夫妻が迎えてくださる花店noteの開店日は顔を出すようになりました。いつもシャーレを2つ選び、その度に吉川さんに草花の名前を教わりながら1年以上。今では製本作業の机の前の壁に、集まった花たちが浮かんでいます。

集めるために買っている訳でもなく、ただ毎月一度「同じ人が選んでくれた、季節の花と出会う日がある」という小さなたのしみの足跡としてある花たち。その時の姿をカメラでものこしておきたくて、持ち帰っては撮り、撮っては壁に飾り。わたしの作業机の前の壁には、32個のシャーレが季節の移ろいを描きながら静かに浮かんでいます。

「生きる力をもらっている」と書くと何だか大げさな響きになってしまうけれど、吉川さんと花の微笑みに、今日も笑顔にしてもらっている気がします。

大きなガラスのシャーレとブルーローズ。時々蓋をあけてみたり(花店note / 2017.9)

そして詩集『汀の虹』には、28篇の詩と詩のあいだに、花の写真が15枚浮かんでいます。その花の写真は、この1年間で花店noteさんからいただいたシャーレの花をおさめたものです。

当初は“汀”にちなんで、海の写真が浮かぶはずだったこの詩集。本体の試作中に思いつきで花のかたちになりました。生きること、死を想うこと、誰かへ贈ることに寄り添う“花”の力を借りて、この詩集にも綴じこむことはできないだろうか?思い立ってできたてほやほやの試作品を手渡し、吉川さんにご相談したのが昨年の夏頃。

手製本の豆本というささやかな小冊子にもかかわらず、シャーレの花の写真を綴じこむことを快くご了承くださり、展示もさせていただけることになりました。気持ちを込めた本の中に、大切な花がある。こんなに大切な本はありません。

本に綴じたシャーレの実物とともに

「汀の虹」の展示最後の2日間にあたる1月27と28日は、花店noteのオープン日でもあります。毎回あたらしい花との出会いがあるので、どんな花が並ぶのかはお楽しみ。気になる方は、noteさんのアカウントから開店日の様子を、「汀の虹」Webサイトわたしが今まで集めたシャーレの写真をご覧いただくこともできます。

そして展示では、今までのnoteさんからいただいたシャーレの実物も詩とともに展示させていただきます。blackbird booksさんの本、そしてnoteさんの花とともに過ごす12日間、たのしみにお待ちしています。

michi-siruve  exhibition「汀の虹」

「小さな詩と花、お贈りします」
“心の揺らぎ”を綴じた豆本詩集『汀(みぎわ)の虹』。本におさめた小さな詩と花を、blackbird booksの白い壁一面に浮かべます。作家在廊時は壁からお好きな詩と花を預り、その場で本に綴じてお贈りする“Book”と“Box”の制作も承ります。本屋さんの片隅で、本づくり。本に触れた方の声を預かるために、あなたの一冊をお贈りするために、静かにお待ちしています。
※在廊日はお知らせページで後日お知らせします。

開催期間
2018.1.16(tue)~1.28(sun)
平日11:00~20:00  土日祝10:00~19:00 ※月曜定休

開催場所
blackbird books
〒561-0872 大阪府豊中市寺内2-12-1 緑地ハッピーハイツ1F
TEL  06-7173-9286  北大阪急行(御堂筋線) 緑地公園駅より徒歩5分
http://blackbirdbooks.jp

2018migiwa-bbb11
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