【Report】「記憶のアトリエ」 in 名古屋

2024年7月6日(土)愛知県にある椙山女学園大学 人間関係学部の「グリーフケア演習」の補講として、本づくりの移動アトリエ「記憶のアトリエ in 名古屋」をひらきました。

声をかけてくださったのは、昨年の春に大阪で「記憶のアトリエ」を一緒にひらいた森川和珠(わこ)さん。

大阪ではわこさんが代表をされているNPO法人 いのちのケアネットワークのメンバーのみなさんのためのアトリエとしてのご依頼でしたが、名古屋ではわこさんが先生をされている椙山女学園大学で「グリーフケア演習」を受講する学生のみなさんのためにとご依頼をいただきました。


NPOのメンバーのみなさんと、そして学生のみなさんと。わこさんが大切に想う人たちとこうしてまた一緒に過ごす時間をいただける有難さを味わいながら、今回のアトリエにふさわしいかたちを感がるところからはじめました。

大学の講義という学びの場では、本づくりになにか共通のテーマを置いたり、本のかたちをみなさん同じにしたり、制作の前にミニレクチャーを入れたり、前後に感じたことや制作した本を分かち合うような時間をつくったりすることもあるのですが、事前のお打ち合わせでのわこさんからのオーダーは「一人ひとりが、思い思いに」でした。

テーマやプロセスなど決まりごとはすべてなしで、学生のみなさんが思い思いに過ごしてもらえるような時間に。そんなわこさんの想いを受けとり、学生のみなさんへの事前のご案内は手製本の種類などアトリエの雰囲気が伝わる程度のご案内ページにして、あとは当日のおたのしみ。

手製本もできるだけいろんなかたちのものを綴じて、お一人おひとりが好きなものを選んでいただけるようにしました。

そして迎えたアトリエ当日。大阪から名古屋まで新幹線で移動し、そこからさらに東にある椙山女学園大学の日進キャンパスまで。土曜日の補講ということもあいまって、緑豊かなキャンパスはいっそう静かで穏やかな空気が流れていました。

最初にわこさんの研究室へ伺うと、壁一面に続く本棚にはやわらかく丁寧な装丁の本たちがいいリズムと余白で並んでいて、知っている本も知らない本も、本の顔つきやタイトルから誰かを想うことが綴られている本たちであることがじんわり伝わってきました。

本棚の前にある普段は学生のみなさんとの面談に使われているというソファに腰掛けながら、学校のこと、学部のこと、演習のこと、今日きてくださる学生のみなさんのことを少しずつ伺い、午後からのアトリエに向けて気持ちを整えます。

そろそろ移動しようかというタイミングで、わこさんが小箱を一つ手渡してくださいました。中身はわこさんが今日のアトリエのためにと集めてくださった、押し花や可愛らしいシールがたくさん。

昨年のアトリエでもわこさんが押し花やきれいな色紙、シールなどをたくさん持ってきてくださり、みなさん微笑みながら手にとってはご自身の大切な記憶と重ねながら綴じていらっしゃいました。

きっと今回もたくさんの微笑みを運んでくれるだろうと、わこさんの気持ちと一緒にいただいた小箱にしまって会場の教室へ移動しました。

案内された教室は、窓の外に初夏の緑がきらめく白くて明るい教室。

アトリエにはぴったりのひかりと緑と余白だなとうきうきしながら机と椅子を動かし、気持ちのよいひかりが入る窓際の一角をアトリエの素材や道具を並べる島をつくりました。

わこさんや学生さんもお手伝いくださり、残りの空間に一人や数人ずつで本づくりができる小さな島がぽこぽこと浮かんでゆきました。

しばらくすると、自転車やバスなどそれぞれの手段で休日の教室まで来てくださった学生さんが一人、またひとりと素材の島を覗きにきてくださり、都度ご挨拶を簡単な案内をしながら時折持ち寄ってくださった「大切なもの」のお話やどんな風に本に綴じれるだろうかというご相談も伺いながら、ゆるゆるとアトリエがはじまったようなはじまっていないような。

みなさんお揃いのタイミングであらためて素材の島に集まって同じご案内をして、3時間ほどのアトリエがはじまりました。

本づくりの島の表側には、いろんなかたちをした手製本がずらり。裏側には素材や道具をたくさん並べました。

コロナ禍前のアトリエで緩和ケア医の先生がくださった和紙のシール、コミュニティナースさんがアトリエのお礼にくださった色とりどりの紙やマスキングテープ、親子で拾い集めて郵便で送ってくださった紅葉、画家の友人がプレセントしてくれた水彩画のような和紙、影絵作家の友人が制作してくれた猫のシルエット。活版印刷された活字や手製本の作品。

そして、コロナ禍を経てアトリエが再開する折に訪問看護師さんからいただいた押し花や、昨年の秋に心理学を専攻する学生さんとひらいたミニアトリエでいただいたシール、今年の春にいのちのケアネットワークのみなさんさんと一緒にひらいたアトリエでいただいた押し花や12星座が煌めく紙など、「記憶のアトリエ」をはじめてからの5年間で各地からお寄せいただいた記憶の欠片たち。

久しぶりにテーブル一面に並べると、あらためて寄付してくださったいろんな方々の顔が浮かびます。不思議と同じ方が寄付してくださった素材を同じ学生さんが手の中に集めていらっしゃったりして、感性というものは不思議で確かなものなのだなといつもうれしい驚きがあります。

今回のアトリエでは、michi-siruveがこの春、花店noteさんのお花の力を借りて制作したあらたしい手製本『*petal 』と『flower*』、そして本を彩る20種類のpetal(花弁)の浮かんだシャーレも並べました。

シャーレの裏には花店noteさんがそれぞれの花の名やお花について綴ってくださった言の葉をこっそりしのばせていたのですが、見つけて読んでくださっていた学生さんもいらっしゃって思わずにっこり。

じっくり選んだり、じっと考えたり、黙々と作業を進めたり……みなさんの様子をみつめながら、あまり邪魔をしないようにそっと覗かせていただいたり、少し声をかけさせていただいたりしながら、みなさんが選んでくださった手製本や制作の様子も、少しだけ撮影させていただきました。

持ち寄ってくださった「大切なもの」、集まった素材からじんわりと伝わるみなさんの「わたし」、指先やページから伝わるもの。

本の余白に、それぞれのリズムで綴られていた「好き」や「大切」「わたし」。

大切な人へ贈りたい気持ちや、大切な人のこれからを想う気持ち。ご自身のこれまでをみつめ綴りなおされている様子……

アトリエで流れていた時間の詳細は参加者のみなさんとの思い出として留めますが、その空気を少しだけ感じていただけたらと、2024年夏のアトリエでともにした大切な時間のそこにあった景色を少しだけおすそわけさせていただきます。

アトリエの写真はお一人おひとりのプライバシーを一番大切にするために、極力作業をされているお手元だけだったり素材だけに留めています。

それでも伝わってくる一人ひとりの「わたし」があって、写真というかたちでその時の記憶を少しだけこうして残していられること。それぞれの写真からみなさんの様子が思い出されて、わたしにとって宝物だなと思います。

アトリエに参加してくださったみなさん、そして写真の許可をくださったみなさん、本当にありがとうございました。


アトリエ自体は本当にいつも通りあっという間に過ぎてしまうもので、場があたたまってきた頃には終わりの時間。いつも名残り惜しくてたまらないのですが「できたら教えてね」と声をかけながら、来た時よりも美しくの心で黙々と素材や道具をトランクにしまって帰路に。

みなさん笑顔で挨拶してくださったり、声をかけてくださったり、わこさんとも帰り道にアトリエ時間を振り返りながらじんわりあたたかい余韻を抱きしめ、すっかり軽くなったトランクを抱えて大阪に戻りました。


アトリエから数日経ち、トランクをあけて道具の手入れをしたり、素材の在庫を確認したり。荷解きをするといつも驚くのが、素材たちが準備をした時と変わらずきれいにしまわれた状態になっていることです。

寄付で集まった大切な記憶の欠片たちを大切に扱ってくださったことが伝わってきてうれしさがこみあげてきたり「あ、この素材がたくさん減っているな」とみなさんが持ち帰ってくださったものにあらためて気づいたり。

人生の中のほんの3時間ですが、みなさんの心の中にある大切な何かを一緒に大切にする時間を過ごせたこと。毎回のことながら有難いことだなと思いますし、お声がけくださったわこさんや参加してくださった学生のみなさんにとって、どんな時間になっただろう?とお一人おひとりの様子を思い浮かべながらトランクを整理し、写真をみつめなおし、このレポートを綴っています。


レポート自体はささやかなものですが、みなさんの学び舎でわこさんと学生のみなさんと一緒に過ごせたことへのありがとうの気持ちをこめて。本当にありがとうございました。

みなさんの残りの学生生活、そしてこれからの日々も、あの日の空気のようにほんのりあたたかい微笑みや声に満ちた日々になりますようにと願っています。

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