【Report】「医学生・研修医のための腫瘍内科セミナー」がん体験者の語り 登壇(2024)

2024年7月27日(土)~7月28日(日)、公益財団法人 日本臨床腫瘍学会主催の「医学生・研修医のための腫瘍内科セミナー」にて、がん経験者として体験談をお話する機会をいただきました。

腫瘍内科医を志す医学生、初期研修医、専攻医のみなさんが集まり、同じ志をもつ仲間とともに学び・語り合い、これからのキャリアを考えるきっかけとなる場として2018年から開催されてきたというこのセミナー。昨年に引き続いて、プログラムの中の「がん体験者の語り」の時間でがん体験の講演のお声がけをいただきました。


このセミナーでは昨年から「Cancer Journey」をテーマに一人の患者さんの人生に腫瘍内科医としてどう伴走してゆくかを考えるというグループワークがあり、そのワーク議論を醸成する一助となるようながんの体験談をお話するという役割をいただいています。

昨年初めてご依頼いただいた時は、腫瘍内科医の先生に治療していただいた経験もなく、抗がん剤治療を受けた経験はあるとはいえ9年も前で再発もなく寛解・治癒した体験しかないわたしでよいのだろうかと不安でいっぱいでしたが、昨年の参加者のみなさんのご感想からも講演内容がグループワークの議論を深める一助になっていたとのことで、昨年に引き続いてのご依頼をいただきました。

今年もテーマや大枠の構成は変えず、わたしの「Cancer Journey」~患者が「いえる(言える・癒える)」助けとなる関わりとは~という言葉を据えました

がんという「わたし」そのものを揺さぶられるような体験にのまれてなかなか本音が「いえなかった(言えなかった・癒えなかった)」患者としての体験と、周囲の助けを得て「いえる(言える・癒える)」ようになった罹患後10年の「Cancer Journey」について。昨年のグループワークでの参加者のみなさんの議論や講演に対するご感想を思い出しながら、必要だと感じた患者情報や状況説明を補足したり、その分他のところを削ったり、改悪にならないようにと気を揉みながら調整を重ねました。

「言えない」からこそ「癒えてゆかない」もの。そんな「いえなさ」を抱えた患者の「これまで」や「今の気持ち」を一緒に見つめてくれた専門職の関わりで、少しずつ「言える」ようになり、自らの「これから」を見出し「癒えて」いった日々のこと。あくまで個人的な体験からお話できる範囲ですが、昨年よりもまた少し本音に近づいた内容をお話できたかなと思います。

スライドの一部はこちら

今年、最後に追加したメッセージがありました。それは、昨年の研修会の後に話かけてくださった先生方が、とても深い感想とともにあたたかく声をかけてくださったということでした。

これまでもさまざまな専門性の方々が集う学会や研修会、講義等で体験をお話する機会を重ね、きいてくださった方々から声をかけていただくことがありました。そのお声がけと比較しても、この研修会に参加されていた先生方はどの先生も、お一人おひとり今まで関わってこられた患者さんやご家族さんとの記憶を重ねながら真剣なまなざしでご自身の言葉で深く語りかけてくださり、それだけ日々、目の前の患者さんやご家族のいえなさや人生を想いながら診療されているのだなと、いち患者としてとても心強く有難く感じました。

なのでその素直な気持ちをあらためてお伝えしたくて、きいてくださっていた腫瘍内科という領域に関心を寄せ志すみなさん、腫瘍内科医の育成に尽力されているみなさんへの最後のメッセージとしてお伝えしました。声にすると何だかこみ上げてしまって上手くお話できませんでしたが、少しでもその想いがお伝えできていたらうれしいです。


体験談の後、今年もまた先生方がそれぞれご自身のご経験を手繰り寄せながら、誰かの顔を思い浮かべながら話しかけてくださいました。その関わりにまた一つ、わたしの患者人生の「いえる」記憶のプレゼントをいただきましたし、この「いえない」「いえる」という言葉はやはり、みなさんが日々向き合われている現実や日常と何かしら地続きのものなのだなとも感じています。

みなさんが向き合われている「いえなさ」を和らげたり解消する術を掲示できるような体験談ではないので力不足も感じますが、それでも関わりながら、ともに考えてゆけたらと思います。


最後に、これは毎回感じることですが、わたしが患者として抱えた「いえなさ」自体は、がんという病そのものがもたらすものや社会の構造的な問題、社会全体との関わりのなかで生じたものでもあります。

医療者のみなさんにお話しするとどうしても、それは医療によって生じたものと伝わってしまうように感じることも少なくありません。治療で命を助けてくださったみなさんには本当に感謝しているという気持ちを伝えることと、いえなかった体験を丁寧に伝えることの両立はまだまだ難しく、「この話でよかったのか」「誰かを嫌な気持ちにさせてしまっていないか」と反省は今日も尽きません。「患者であること」の矢印への自覚は今後も都度問いなおしながら、語りのあり方も含めて引き続き考えてゆきたいです。


また、今回も1泊2日のセミナー全体に参加させていただき、セミナー全体を通して参加者のみなさんがどんな時間を経験されるのか、その時間から学ばせていただくことがたくさんありました。

プログラム以外の時間でも先生方や運営スタッフのみなさんのお話をお聴きする機会にたくさん恵まれ、病院というそれぞれの「立場」から逃れられない緊迫した空間を離れて人と人としてお話を聴きすることができたその時間は、患者としては本当にありがたい時間でした。

今年もあたたかく迎えてくださり、細やかなお心配りとともに企画運営をしてくださった日本臨床腫瘍学会のみなさん、本当にありがとうございました。人との出会いや再会に支えられていることを改めて感じながら、これからも一つひとつのご依頼に精一杯向き合いできることを重ねていきたいと思います。

2日目朝のびわ湖畔
このページの内容