「そら」#掬することば

毎年毎年、この季節になると心がちくりといたむ“産まれる前にうしなったいのち”のこと。
がんにならずに産んであげられていたら、8歳か
産まれてきた子どもたちと同じようにわたしのなかでは存在があるのに「産まれていない」から言えなくて癒えなくて、誰とも分かち合うことができない“うしなったいたみ”。
せめて家のなかではあたたかな存在として実在させて、一緒に時を重ねることができる何かがないだろうかと、誰にも言えないながらもそんな何かをずっと探していました。
そんな折 、Fältさんで4年ぶりに岡野香さんの天使の作品展があると知りました。SNS越しにFältさんにやってきたちいさな天使たちを見つめているうちに、言えなかった想いがふつふつと。
いたみ自体が“なくなること”を目指して頑張るのではなくて、むしろ“あること”を言えるようになることが今の自分には必要なのかも?
12月の凛と冷えた夜、勇気を出して夫に岡野さんの天使を一人迎えたいと夫に相談。少し早いクリスマスプレゼントとして、池田の五月山の麓にあるFältさんまで連れていってもらえることになりました。
「一番2人に似てる子がいいな」と悩みながら、棚に佇む天使たちを一人ひとり見つめながら。
顔はわたし似、髪の毛は夫似の 一人だけ目をあけていたちょっぴり愛嬌のある天使と、彼が腰かけていたちいさなおうちを迎えました。

家に帰ると居場所探し。どこに居てもらおうかと想いを巡らせ、おうちのまんなかにある一番見晴らしのよいリビングのカウンターに居てもらうことに。
翌朝、リビングでほほえむちいさな天使を見つめているうちに、もうひとつずっと抱えていたことを言いたくなりました。
「もうひとつ相談があるんだけど」
「ずっとつけたかった名前があるんだけどね。そらくんっていうの」
「いいんじゃない?」
「ひらがなかローマ字かでちょっと迷ってる」
「ローマ字よりひらがなの方がよいんじゃない?」
「やっぱりひらがなだよね。じゃあそらくんにする」
“存在”としてあるって大切だな。2人で選んで迎えることができてよかったな。8年を経て、言えた“いえない”をようやく。
こんな風に“いえないいたみ”をちゃんと表現して受けとめあえる、支えあえる関わりを大切にしたいし、そんな社会を育む一人でありたい。そんなことを想ったがんの治療から8年を迎えた冬の1日でした。
天使を制作してくださった岡野さん、天使を選びに来た事情を知り、あたたかく送り出してくださったFältさん、そして一緒に選んでくれた夫にも感謝です。
そら【空/▽虚】
1 頭上はるかに高く広がる空間。天。天空。2 晴雨などの、天空のようす。天候。空模様。
3 その人の居住地や本拠地から遠く離れている場所。または、境遇。
4 (多く「そらもない」の形で)心の状態。心持ち。心地。また、心の余裕。
5 すっかり覚え込んでいて、書いたものなどを見ないで済むこと。
6 家の屋根や天井裏、木の梢 (こずえ) など、高いものの上部。てっぺん。
1 他に心を奪われ、ぼんやりして当面の事柄に対応できないでいるさま。うわのそら。2 はっきりした理由もなく事が起こるさま。偶然。
3 確かな根拠もなく推量するさま。
1 それらしく思われるが実際はそうでない、という意を表す。うそ。いつわり。2 実体のない、事実でない、などの意を表す。
3 あてにならない、信頼できない、などの意を表す。
4 はっきりした理由のない、わけのわからない、なんとなく、などの意を表す。
(デジタル大辞泉)