四季の美しさや移いゆく儚さに情緒を感じる日本人の心と、職人たちの覚悟と手仕事の技から生まれ、時代を超え大切に着継がれてきたアンティーク着物を「想い出を纏うコスチューム」として創作ドレスに生まれ変わらせ、世界各国で日本文化を伝える公演を行っているNPO法人 美・JAPON理事長 デザイナーの小林栄子さん。
「日本文化を伝えたい」という想いのもと、様々なアーティストと共に創作活動を続ける小林さんの“想い”に惹かれて、東京の麻布十番にあるアトリエへお伺いしました
── 実はとても気になっていたドレスが2着、白い衣のドレスと青い衣のドレスで、どちらもモデルさんが纏ったときにふわーっと風をはらんで舞っていて、見入ってしまいました。
小林:その2着はどちらもアーティストさんがご協力くださって生まれた作品ですね。まず白のドレスは書道家の女性にシルクの生地をお渡しして、墨で書いていただいたものです。110cm幅で3mの生地をお渡しして蓮の花を思うように書いていただいて、受け取った生地からデザインしました。
本当にどうってことない形と縫製ですが、モデルが着て動くことでひらひらとたなびいて流れが生まれます。
── 布の流れであると同時に、時の流れも感じます。マントも同じ時期のものですか?
小林:マントはそれよりも昔で、2008年に書道家の男性に書いていただいたものです。これは時代の異なる2種類の生地を使っていて、本当に空気をはらむのね。
1枚は100年くらい前の手紬のものなので、薄い分空気を通す。もう1枚は昭和に入ってからのものなので、機械織りで繊維が詰まっている分空気を逃がさない。年代の違いから風のはらみ方に差が出て、想像できない動きが生まれるのです。
── 時間軸を超えて1つのドレスを創ったことによって、ドラマティックな時の流れが生まれていたのですね。素材の違いで動きが生まれることは、創る前から計算されていたのでしょう?
小林:そこまでは計算していなくて、ただ生地はこれ以上ないという状況で、他の生地を合わせたというだけのことで。生地それぞれに書いていただいて、受け取った生地を繋ぎ合わせた結果生まれたものですが、最も活躍している作品かもしれません。
── 青い衣のドレスは、どのように生まれてたのでしょうか?
小林:青にこだわる染色家の方に出会い、海の色を表現してくださいとお願いして、何とも言えない素晴らしい色合いに染めていただきました。
青というのは染色に劇薬も使うし、非常に難しいと言われていますよね。この布は新しいもので、ジョーゼットと丹後ちりめんを組み合わせることで、とても良く光を通してくれます。
── 公演の様子を拝見すると、光と風を通して何とも言えない輝きが生まれていますね。
小林:そうですね。光を通すということは、光の粒子がここを抜けていく訳で、その瞬間にあの何とも言えない美しい色に輝くのでしょうね。これもぜひショーの場で見ていただきたい作品です。
── こうして1着ずつお話を伺いショーを拝見すると、さらに感動が増す気がします。
小林:2016年は4月にベルギーで開催される「ゲント花博」に招致されて、オープニング公演を行います。今回は「竹取物語」をテーマにして、着物による創作衣装、和楽器、舞、お香など、五感で感じる日本美をご覧いただこうと準備を進めているのですが、本公演前の4月5日に日本でもプレ公演を行うことになりました。ぜひ実際の公演で「感じて」くださいね。
── はい、本当に楽しみにしています。今回はお忙しいところ、じっくりとお話を聴かせてくださり、本当にありがとうございました。
取材後記
初めて美・JAPONの公演映像を拝見した時、舞台の上で色鮮やかに、そして軽やかに風をはらんで舞うアンティーク着物のドレスから時の流れすら感じるような不思議な感覚になりました。一体どのようなこだわりがあの流れを生んでいるのだろうかとアトリエへ伺い小林さんに問いを投げかけると、その答えは「流れを断たずに、流れを生かす」という非常にシンプルで力強い、流れへのこだわりでした。
取材後「流れ」という言葉を改めて辞書で調べると「広がり伝わる」「仲間」といった意味も持つことを知り、時代の流れを敏感に感じ、その志の元に様々なメンバーを巻き込みながら創作を続ける小林さんそのものをあらわす言葉だなと思いました。
流れを大切にしながら、感じ、想いを交わし、繋がる。そんな人同士の心動く喜びをこの記事を通してお届けできたらと思います。
Interview,Writing,Photo :藤田理代(michi-siruve)
2016年1月27日取材