「本とわたしの記憶」 ―4. “声”を綴じ、“声”を聴く

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本の中身を全部取り出すことができる豆本詩集『汀の虹』

ZINE作家のmichi-siruveです。小さな頃から本が好きで、いつもお気に入りの本を抱えて暮らしてきました。29歳で絨毛がんという希少がんを経験したことをきっかけに、“大切な記憶”を小さな手製本に綴じる活動を続けています。
病の経験と本づくりについてのお話は、今年1年かけて連載「まなざしを綴じる」(教養と看護)で綴らせていただいたのですが、2018年1月からblackbird booksさんではじまる展示「汀の虹」に向けて、もう少し個人的な自己紹介を兼ねて「本とわたしの記憶」から、5つのこばなしをお届けします。

1. 好きな本
2. 製本の先生
3. 忘れられないことば
―4. “声”を綴じ、“声”を聴く
5. そして、本と花のこと



本と戯れる1歳のわたし

「本とわたしの記憶」 ― 4. “声”を綴じ、“声”を聴く

[su_note note_color=”#FFFFFF” text_color=”#444444″]本というかたちが好きです。

なぜなら、本は人の“声”を抱くことができるから。そして、本に触れればいつでもどこでも誰でも、その“声”に触れることができるから。

本に触れた人の“声”を聴くのも好きです。

あたたかな紙に綴じられた“声”に触れた人の“声”も、またあたたかい。そしてその“声”が、次に綴じるものへとつながっていくような気もしています。[/su_note]

これは随分前に、私がメールボックスの未送信欄に残していたメモです。電車に乗っている時にでも打ったような、未完成の記憶の欠片。

取材を通して預かるものを、“ことば”や“語り”と表現していた頃もあったのですが。この3年ほど、綴じては贈るということを積み重ねる中で、今は“声”をという表現が一番しっくりくるような気がしています。

記憶を辿ると、物心ついた頃から本は声を抱くものでした。音が耳に届くという意味では、テレビや音楽プレーヤーの方が確実に届く側面もあるけれど。幼い頃の「目の前にいる母が、わたしとの駆け引きの中で読んでくれる」という体験とともにあった絵本には、放映や再生によって届く音とは違った、わたしだけに向かって届けられる生の声とリズムがありました。

独りで本に触れるようになった今でも、本の中の文字は“声”をもって届いてくる。会話よりもじっくりと、そして何度も声に触れることができるのが、わたしにとっての本なのかもしれません。

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母が撮りためた家族写真に、娘の声を添えて再編集した『母のまなざし

もうひとつ、母が撮りためまとめていた家族写真のアルバムにも、母の声が宿っていました。0歳から毎年1冊ずつ。そこには母のまなざしを感じる写真たちがリズム良く並んでいて、どの写真にも、いつか文字が読めるようになった時にこの本を覗き込むであろうわたしに向けられた、母の“声”が添えられていました。

「つわりがひどくて、おなかのなかはきゅうくつだったのでしょう」「この日みちよは“さくらのはな”とおぼえました」本に触れると、母の声が聴こえてきます。写真の組み合わせやことばのリズムも好きで、幼少期に一番よく触れた本かもしれません。

アルバムが本かといえば少し違いますが、こどもにとってはどちらも自分の手でページを進めながら物語に触れる本というかたち。覚えているような、でも忘れてしまった記憶の欠片に触れることができるそのアルバムは、わたしにとって“とっておきの本”でした。

では、本とは何なのか?どこまでが本で、どこからが小冊子で、ZINEとは何なのか。境界線の話は難しいですが、本というかたちや、本ということばの響きにはやっぱり夢がある。儚く消えてしまうでも確かなものとして抱き、いつでもどこでも誰でも手にとって触れることができる。人と人との間にそっと置き、そっと触れ、そっと交わすこともできる。あたたかなメディアだなと感じています。

だからこそ、一人ひとりの記憶を抱くものとしても、本というかたちが在ってくれたらいいなと。本へのリスペクトは忘れずに、でもより身近な素材や道具で自分の手でかたちにしたり、預かって代わりにかたちにしたりということも、あっても良いなと思うのです。

汀の虹』と『otomo.』の設計図

今までお預かりした記憶の中には、闘病中のご家族へのお守りになる本をとご依頼いただいた家族の思い出もあれば、大切なご家族の暮らしの品や遺品もあります。

そこに依頼主の“声”を添えて贈る。大切な記憶が本というかたちになると、皆さんとても嬉しそう。綴じられた“声”にそっと触れる表情も、何だか特別なものがあります。そして本を読み終えた時、読み手から生まれる“声”は、あいだに本というものがあるからこそ聴ける声のような気もします。その一つひとつが、純粋に嬉しいです。

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「汀の虹」お披露目会(みつづみ書房 / 2017.10)

そして今回綴じた詩集『汀の虹』は、わたしががんを宣告されてから3年間の、心の揺れを詩にしたものです。わたしの記憶が本の流れの土台にはなっていますが、この3年間、がんを経験した方やご家族、もっというと病の経験に限らず本に触れてくださった方々との対話の中で、聴いてきた“声”も重なっています。

病の経験の有無に関係なく、色んな人が触れ、声を聴かせていただけたら嬉しいな。だからこそ詩というかたちで、本が大切にされ、本が好きな人が集う“本屋さん”という場所で触れていただく機会が作れたらと「汀の虹」の展示に至りました。

本の中身をばらして、本屋さんの壁に浮かべるというのも中々できることではないし、本が抱くものを見た目にも感じていただけたら良いなとたのしみにしています。ぜひ本に触れて、声を聴かせていただけると嬉しいです。

そんなこんなな、本と声のこばなしでした。そして最終回は「5.そして、本と花のこと」。今回展示をさせていただくblackbird booksさんの本のこと。『汀の虹』にも綴じている花店noteさんのお花ことについてお届けします。

michi-siruve  exhibition「汀の虹」

「小さな詩と花、お贈りします」
“心の揺らぎ”を綴じた豆本詩集『汀(みぎわ)の虹』。本におさめた小さな詩と花を、blackbird booksの白い壁一面に浮かべます。作家在廊時は壁からお好きな詩と花を預り、その場で本に綴じてお贈りする“Book”と“Box”の制作も承ります。本屋さんの片隅で、本づくり。本に触れた方の声を預かるために、あなたの一冊をお贈りするために、静かにお待ちしています。
※在廊日はお知らせページで後日お知らせします。

開催期間
2018.1.16(tue)~1.28(sun)
平日11:00~20:00  土日祝10:00~19:00 ※月曜定休

開催場所
blackbird books
〒561-0872 大阪府豊中市寺内2-12-1 緑地ハッピーハイツ1F
TEL  06-7173-9286  北大阪急行(御堂筋線) 緑地公園駅より徒歩5分
http://blackbirdbooks.jp

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