「はなす」#掬することば

nigera2019

今から2ヶ月ほど前のこと。とある取材にお声がけいただき、流産とほぼ同時に絨毛がんの治療を経験した5年前の記憶と、「そのあと」を生きてきた5年間の足跡をお話しするという貴重な機会をいただきました。

日々ことばを掬い上げたり、見つめたり、本に綴じたりという営みを続けているわたしですが。「話す」という行為にはとりわけ苦手意識があります。問われたことにふさわしいことばをすぐに掬い上げることができずに中々答えられなかったり、ことばにしているうちに考えがこんがらがってきたり、答えたもののそうじゃなかったような気持ちになったり。いつも後悔ばかりが積もります。なので「声に出して誰かに語る」ということは極力避けて暮らしてきたところがあります。

でも今回お声がけくださった方は「若くしてがんを経験したサバイバーである」という事実の奥に抱え続けている、流産という経験のいたみを察してお声がけくださって。問いかけにそって、ありのままをお話してみることに。

話してみて初めて気づいたことは、失った瞬間もそのあとも、わたしの周りにいた誰しも、そしてわたし自身も気づいていながらも触れることを避けてきた記憶や感情がそこにあったということでした。それを話すことがことができた「そのあと」は、自分でも驚くくらい心の変化が生まれているような気がします。そんな自分の変化を見つめながら、ふと思い出したのが「“話す”ことで、“放す”、”離す“、”花す”こともできる」ということば。

これは、関西で「記憶のアトリエ」を一緒にひらいている心理カウンセラーのけいこさんが以前おっしゃっていたことです。

話す(放す)ことで、少しだけ自由になれるのかもしれない。話す(離す)ことで、客観的に見つめたり、他の視点からも見つめられるようのかもしれない。話す(花す)ことで、かなしみやくるしみの種から花ひらき、記憶の花として抱くことができるのかもしれない。

わたしはそれを手製本を綴じることで続けていて。

「綴じる」ことで種となり
「交わす」ことで育まれ
いつか記憶の花が咲くのかなぁと。

綴じ続けてきた意味もまた感じることができました。声を受けとめて、受けとってくれる人がいるからこそ踏み出せる一歩。その力を改めて感じた2019年の春でした。

はなす【話す】
1 言葉で相手に伝える。告げる。語る。
2 相談する。話し合う。
3 外国語を使う。
4 交際する。つきあう。

デジタル大辞泉

はな・す【放す】
1 捕らえられたりつながれたりしている動物などを自由にしてやる。
2 握ったりつかんだりしていたのをやめる。
3 手元から遠くにやる。手放す。
4 矢や弾丸を発射する。はなつ。
5 料理で、水や汁などに入れて散らす。
6 ㋐あることをしたままほうっておく。
㋑ある状態を続ける。前に促音が挿入されて「ぱなす」の形をとることが多い。

デジタル大辞泉

はな・す【離す】
1 くっついているものを解き分ける。
2 他のものとの間を隔てる。その位置から遠ざける。
3 二つのものの間に隔たりをつくる。間に距離を置く。
4 視線を別の所に移す。
5 除く。はずす。

デジタル大辞泉

はな【花/華】
1 種子植物の有性生殖を行う器官。
2 花をもつ植物。また、美の代表としてこれをいう語。
3 桜の花。
4 2のうち、神仏に供えるもの。枝葉だけの場合もある。
5 造花。また、散華 (さんげ) に用いる紙製の蓮の花びら。
6 生け花。また、華道。
7 花が咲くこと。また、その時期。
8 見かけを1にたとえていう語。
9 1の特徴になぞらえていう語。
㋐華やかできらびやかなもの。
㋑中でも特に代表的で華やかなもの。
㋒功名。誉れ。
㋓最もよい時期。また、盛んな事柄や、その時節。
㋔実質を伴わず、体裁ばかりよいこと。また、そのもの。
10 1に関わるもの。
㋐花札  。
㋑心付け。祝儀。
11 世阿弥の能楽論で、演技・演奏が観客の感動を呼び起こす状態。また、その魅力。
12 連歌で、花の定座。また、花の句。
13 和歌・連歌・俳諧で、表現技巧や詞の華麗さ。
14 梅の花。
15 花見。特に、桜の花にいう。
16 誠実さのない、あだな人の心のたとえ。
17 露草の花のしぼり汁。また、藍染めで、淡い藍色。はなだいろ。はないろ。
18 華やかなさかりの若い男女。また、美女。転じて、遊女。
19 「花籤 (はなくじ) 」に同じ。

デジタル大辞泉
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