2024年もはじまり1週間。昨年末は仕事が忙しかったのと、年が明けてから次々に起こるいたましい現実に言葉が見つからずの日々でした。
大切な友人たちの無事の投稿に安堵し、大切なご家族や暮らしの場を失った方たちの報道にいろんな思いや記憶を重ね、ささやかながら関西から今できることをと重ねる日々ですが、自分の日常も押し寄せてくるのでまずは2023年の振り返りからはじめたいと思います。
毎年恒例の今から14年前、大学4年生のお正月から何となく続けている今年の一文字。
2023年は「関(かかわる)」という一文字でした。
かかわ・る【関わる/▽係わる/▽拘る】
(デジタル大辞泉)
1 関係をもつ。関係する。
2 重大なつながりをもつ。影響が及ぶ。
3 (拘る)こだわる。
michi-siruveは、ZINE(手製本)の制作や病院や地域での移動アトリエの活動を通じて、ご依頼主さまお一人おひとりとさまざまな関わりを続けています。
大切にしているのは、言葉の奥にある“心の種”に耳を澄ませること。そしてその種を一緒に育みながら、芽のような、蕾のような、小さな花のような、心の灯のような…ささやかでもあたたかなものを一緒に育み見つめてゆくこと。そんな想いを、小さなロゴにこめて活動しています。(michi-siruveプロフィールより)
プロフィールに添えている「ご依頼主さまお一人おひとりとさまざまな関わりを続けています」という一文の、「さまざま」こそがmichi-siruveの活動で大切にしていることだというメッセージとともにこの一文字を置きましたが、振り返るとその「さまざま」がより広く深い協働や関わりをいただいた1年となりました。
年明けから春先にかけては、医療と接点にあるテーマで「本(冊子)」というかたちにする関わりの機会をいただきました。
ZINE『ホスピタアートを考えるその前に』や、他にもまだ非公開のものがあるのですが、共通していたのが「声なき声や言葉にならない想いを抱えた人との関わりや、関わる人としてのあり方」をみつめ、ともに考え、実践してゆくためのみちしるべのような本であるということでした。
それぞれのご依頼が「他の誰でもない、福祉での学びや患者としての体験を経たあなただからお願いしたい」というお声がけだったことも、制作者として有難いことでした。本づくりの旅をご一緒してくださったみなさま、本当にありがとうございました。
そして春の訪れとともに、 NPO法人 いのちのケアネットワークのみなさんと大阪府内で約3年ぶりに「記憶のアトリエ」をひらきました。3年ぶりにNPOのメンバーのみなさんが集う日に「わたしの大切なもの、わたしの大切な記憶を、心から大切にできる場と時間をみんなに体感してもらえたら」と、メンバーのみなさんのためのアトリエとしてご依頼をいただきました。
感染症の流行以降、オンラインのミニアトリエや短めの時間に設定したミニアトリエなど、参加者のみなさんの安心が守られるかたちを模索しながらちいさく続けてきた本づくりのアトリエですが、久しぶりのゆったりとした開催。
同じ場に集い、時を共有し、ともに居るからこそ感じあえる微細なものや響きあいから生まれる温もりや安心感。そして「ただのわたし」になって過ごせる場でともにするよろこび。その温もりやよろこびを思い出させていただいた大切な時間となりました。
まだまだ感染症への不安も大きかった時期にご依頼くださり、集い、一緒に時間を過ごしてくださったみなさま、本当にありがとうございました。
そして春過ぎから秋にかけては、がん経験者としてさまざまなは場所での講演や大学の講義で体験をお話しする機会をたくさんいただきました。その多くが「数年ぶりの現地開催」という企画。企画者のみなさんや参加者のみなさんのこの3年と久しぶりに同じ場に集うその時間を想いながら、一つひとつのご依頼にそってその時の精一杯でお話しました。
まずは5月に開催された第5回 AYAがんの医療と支援のあり方研究会学術集会。シンポジウム3「AYA世代がん患者のアドバンスケアプランニング」で、AYAがん経験者として登壇する機会をいただきました。
【患者が「自分の気持ち」を表現するために必要な関わりとは?】というテーマで、「言えない」からこそ「癒えてゆかない」もの。そんな「いえなさ」を抱えたわたしの「これまで」や「今の気持ち」を一緒に見つめてくれた専門職の関わりで、少しずつ「言える」ようになり、自らの「これから」を見出し「癒えて」いった日々のこと。体験からお話できる範囲でお伝えしました。
いろんな意味で力不足さを痛感した登壇でもありましたが、振り返るとこの登壇での経験でより深く、そして周囲との関わりも含めてお伝えすることの大切さを学びました。貴重な機会をいただき感謝の気持ちでいっぱいです。
次に7月に「医学生・研修医のための腫瘍内科セミナー」でも、がん経験者として体験談をお話する機会をいただきました。
腫瘍内科医を志す医学生、初期研修医、専攻医のみなさんが集まり、同じ志をもつ仲間とともに学び・語り合い、これからのキャリアを考えるきっかけとなる場として開催されているこのセミナー。一人の患者さんの人生に腫瘍内科医としてどう伴走してゆくかを考えるグループワークの一助として、議論を醸成するようながんの体験談をいうご依頼をいただきました。
グループワークのテーマ「Cancer Journey」に合わせて、テーマは【わたしの「Cancer Journey」から考える】。体験談の中心にあるのはいつもと変わらず、がんという「わたし」そのものを揺さぶられるような体験にのまれてなかなか本音が「いえなかった(言えなかった・癒えなかった)」患者としての体験ですが、今までの講演では踏み込まなかった葛藤や周囲とのやり取りも含めてお伝えしました。
体験談の後、先生方がそれぞれご自身のご経験を手繰り寄せながら、誰かの顔を思い浮かべながら話しかけてくださったことがとても印象に残っています。先生方がお一人おひとりのことを想いながら日々診療をされていること、慣れない場所で上手く話せず不安気なわたしに対しての思いやりの声かけであることも伝わってきて、患者としてとてもあたたかく、ありがたい体験となりました。
9月には、前年に続いてがん医療に従事されている医療者のみなさんが集う研修会で、希少がん経験者として体験談をおはなしする機会をいただきました。
こちらもテーマは【患者がいたみを「いえる(言える・癒える)」助けとなる関わりとは】ですが、前年の研修会で参加者のみなさんからいただいた言葉や春から秋の登壇いただいた感想など、医療者のみなさんとの関わりのなかでわたしが受けとったものを織りこみながらお話しました。
また、夏の腫瘍内科セミナーでセミナー全体を見学させていただいたことが自分の中でとても大きな体験となり、研修会全体の中での自分の役割をよりしっかりみつめたいという思いから、研修会の最初から終わりまで見学させていただきました。
がんの体験談の前後に参加者のみなさんがどのような時間を過ごされているのか。その時間や日々のお仕事のなかで、参加者のみなさんがどのようなことを感じ、考え、集まっていらっしゃるのか。自分自身もその研修会全体の流れの中に居て、多職種のみなさんの声をきかせていただくことで、より細やかに感じることができたように思います。
「また来年も」とお声がけいただけたこともありがたく、ともに時を重ねる機会をいただけるからこそお届けできるものを、今年もより丁寧に紡いでお贈りして、患者さんやご家族の今日のためにできることをとに考えてゆけたらと思っています。
9月末には奈良県総合医療センターの「あをによし祭(病院まつり)」内のイベントで、診察室での対話にフォーカスした患者体験談を少しだけお話をする機会もいただきました。
7月「医学生・研修医のための腫瘍内科セミナー」にて、がん経験者として体験談をお話する機会をくださった先生からのお声がけで、先生が勤務されている病院での協働。
医療者と市民のみなさんが一緒になり、普段診療に使用されている診察室を使って「医師役」「患者役」「患者サポート役」「観察役」に分かれて自分の想いを伝える体験をしながら「Assertiveness(想いを伝える力)」について考えるというイベントで、テーマも【「わたし」のことを伝えるために~診察室での対話のためにしていること~】に絞り、さまざまな背景をお持ちの市民の方にも無理なくきいていただけるようにということを大切にお届けしました。
普段は静かにじっと待つだけの待合室で医療者と市民が語り合い、診察室でもじっくり想いを伝えあい、ききあう。病院内でこのような体験を重ねることが、少しでも日常の通院・診療で想いを伝えあう助けになったら嬉しいなと、そんなことも思いました。
大学でのゲストスピーカーは継続してお声がけいただいている3つの大学で学生のみなさんと講義を通して交流する機会をいただきました。こちらもすべて対面開催に戻り、学生のみなさんと時と場を共有しながらの時間でした。
まず5月に、フェリス女学院大学 音楽学部 音楽芸術学科の「心と音楽」という講義では「“心の汀”をみつめて」〜誰かの「わたし」の呼び水になるということ〜というテーマで、お話をしました。
声をかけてくださったのは、前年もフェリス女学院大学の「医療と音楽」の講義にお声がけくださった緩和ケア医の儀賀理暁さん。講義のカリキュラムやその流れの中での役割、今年の大学の様子や学生さんの関心事などを教えていただきながら今年の講義にあたって託されたのは、講義の根底に流れ続ける「わたし」ということばでした。
自分のなかにある「わたし」と向き合ったり、同じ講義を受講する学生さんの「わたし」に触れ、それぞれの「わたし」を感じあうという時間を重ねてきた学生さんへどのような時間をお贈りできたらよいだろうと考えながら、儀賀さんとのセッションも交えながらの時間となりました。
昨年の講義よりもいっそう学生のみなさん一人ひとりの「わたし」が綴られたメッセージに、儀賀さんがご依頼くださった「わたし」を感じ、聴き手の「わたし」の呼び水となるよろこびを感じたひとときでもありました。大学という豊かな学びの場でゲストスピーカーとしてみなさんと時間を過ごす一人として、これからも呼び水であれることを大切にしたいと改めて思った2023年の春の日となりました。
温かく豊かな時間をともにしてくださった儀賀さんと学生のみなさん、本当にありがとうございました。
7月には、5年目となる金城学院大学 人間科学部 コミュニティ福祉学科の「現代社会問題」という講義で、4年ぶり大学まで伺い【「わたし」からともにみつめる当事者体験】~若年の希少がんを経験した9年を振り返って~というテーマでお話しました。
社会問題を社会福祉というまなざしで捉えるだけでなく「自分事として考える」ために社会問題の当事者や支援者の方がゲストスピーカーとして学生のみなさんと関わることも大切にされている講義で、当事者としてお話する責任の大きな講義。
過去4年間も先生と受講したくださる100名前後の学生のみなさんとみつめてきた「自分事」ということばですが、もう一歩「自分事」、学生さんの「わたし」にできる限り近づく術はないのだろうか? そんな想いから今年はタイトルを「“わたし”からともにみつめる当事者体験」に変え、社会問題としての「がん」の知識や情報の部分はぐっと圧縮して、患者一人ひとりの「わたし」とそのグラデーションをできる限り丁寧に伝えて感じていただけるような構成にしました。
また、今回の講義では金城学院大学 看護学部の纐纈ゆき先生、清水智子先生、久保あゆみ先生、この春に「記憶のアトリエ」でご一緒したNPO法人 いのちのケアネットワークの代表であり、椙山女学院大学 人間関係学部 人間関係学科の先生でもある森川和珠さんもお越しくださり、講義の後の学生のみなさんからの質疑応答の時間では4人の先生のご経験や想いも交えながら「わたし」についてともに考える時間を過ごすことができました。
質疑応答でも例年以上に「わたし」と周囲の人との関わりについての質問をたくさんいただき、ご聴講くださった先生方のお力もお借りしながらその問いをみつめることができた2023年の講義はより深く学生のみなさんの心や記憶に残るものになったのではと感じています。先生方、学生のみなさん、本当にありがとうございました。
10月は4年ぶりに、母校でもある関西学院大学 人間福祉学部 人間科学科 藤井美和先生のゼミでお話会とミニアトリエをひらきました。
初回の講義では「大切」をともにみつめるというテーマで、学部の卒業生として在学中からその後の人生についてのお話を。2週間後には「大切なもの」をみつめるというテーマでミニアトリエをひらき、学生のみなさんがご自身の「大切なもの」をみつめて綴じる本(ZINE)づくりの時間を。2つの時間を通して、それぞれの「大切なもの」をみつめ、分かち合うひとときをご一緒しました。
今の4年生は1年生の春から丸2年間、オンラインの授業で学生生活を過ごされていたこと。メッセージのやりとりを通して、藤井先生が学生お一人おひとりを大切に思う気持ちを受けとりながら、大切なゼミ生のみなさんが集う貴重な秋学期のゼミの時間を2回も委ねていただけることがとても有難く、責任も感じました。
ご依頼のとおり、みなさんにとって何かご自身のことを振り返ったり、これからのことを考えたりするようなひとときをお贈りできたらと、お話の構成やアトリエの設えを相談しながら考えて、1回目の会は【「大切」をともにみつめる〜誰かの「大切」の呼び水になるということ〜】という題で学生のみなさんの「大切」をみつめる種をたくさんお渡しして、2週間後のアトリエの時間につなぎました。
4年ぶりのアトリエには、コロナ禍で参加できなかった卒業生も2名ご参加くださり、学生のみなさんが「大切なもの」をみつめて綴じる本(ZINE)づくりの時間をともにしました。
アトリエの後に学生のみなさんからいただいたメッセージには、お一人おひとりのいのちや生きることをみつめてきたご自身のまなざしが宿っていて、心の少し深いところがそっと揺らされるような言葉をたくさんいただき、それぞれにいろんなことを感じてお話とアトリエの時間を過ごしてくださっていたことが伝わってきました。
また、藤井先生から最後にいただいたメッセージは、学生のみなさんを想うあたたかな言葉で結ばれていていて、わたし自身が在学中も卒業後も、どんなわたしでも大切にあたたかく迎えていただいてきた記憶も重なり、胸がいっぱいになりました。こうして先生方に大切にしていただき受けとったものは、後輩たちにお贈りできたら。そんな気持ちも再確認した2023年の秋でした。
こうして3つの大学で過ごした時間。学生のみなさんを想い貴重な講義の1コマにお声がけくださり、講義の前後も含めてさまざまなことをともに見つめ、考えてくださる先生方との関わり。そして講義を通してそれぞれのまなざしで見つめ、感想をくださる学生のみなさんとの関わりから、他でもないわたし自身が考える種をたくさんいただきました。
記事はまだ公開前ですが、10月には「第1回 病気療養中の子どもたちと学生がつくる、”学びの場”について考えるフォーラム」で、病気療養中の子どもたちと学びの場づくりに取り組む学生のみなさんと一緒に2日間を過ごしながら撮影係をつとめました。
Day1は学生のみのクローズドなプログラムとして、学生のみなさんがお互いの団体の活動を知りあいよいところをみつけあうワークショップや、心や身体を動かしながら「関わり」について考えるワークショップを中心に、学生同士が知りあいつながりあうような時間を。
Day2は「第1回 病気療養中の子どもたちと学生がつくる、”学びの場”について考えるフォーラム」として、会場に各団体のブースをつくり、活動展示やフォーラムでの活動紹介を。さらには子どもたちの学びに関わり、この共同プロジェクトに賛同し応援するゲストスピーカーを迎えて”学びの場”について考える時間を持ち、フォーラムの参加者のみなさんとも交流するという濃密な2日間。
学生生活も団体の活動も感染症流行の影響を大きく受けながらも、病気療養中の子どもたちと学びの場づくりに取り組み、オンラインでの交流を経て初めて同じ場所に集ってひらかれたプログラム。みなさんの今日までの日々、この場での気持ち、そしてこれからを想いながらそっと耳を澄まし、その瞬間瞬間を撮影係として写真におさめました。
この日のことは、またあらためてお届けする機会ができそうです。その日をたのしみに、わたしができる関わりを続けてゆきたいと思っています。
2023年は、わたし自身の学びを深める年でもありました。本を読んだり、作品を鑑賞したりというインプットはもちろん、やグリーフケアやスピリチュアルケアの講座や学会に参加してそれぞれのまなざしや想いに触れたり、さまざまな専門性をもつみなさんと語り合ったり。お会いして語り合う時間の中で、これから深めてゆきたい学びのみちしるべをたくさんいただきました。
ここ数年はいただいたご依頼に応える時間に追われすぎてしまったところもありましたが、一度立ち止まって学びの時間をとったことでmichi-siruveという器やまなざしを整える時間を得ることができました。そういった意味でもとても豊かな関わりのなかでこれから大切にしたいものをみつめ、育む基礎を整える時間をいただいたような2023年。
関わってくださったすべてのみなさんにあらためて感謝しながら、2024年につなげていきたいと思います。引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。