【Report】ミニアトリエ「好き」を綴じ交わす @東京家政大学 人文学部 心理カウンセリング学科

2022年9月10日(土)東京家政大学 人文学部 心理カウンセリング学科の五十嵐友里先生からお声がけをいただき、五十嵐先生のゼミで 「好き」を綴じ交わすというテーマのミニアトリエをひらきました。

五十嵐先生との出会いは、この春に出演させていただいた『M-Educational CAFÉ ~ラジオみたいなの~』。

ラジオのなかでおはなししたmichi-siruveの制作活動、“記憶”ということばのもと、ZINE(ジン)という手製本の制作を通して患者さんやご家族、医療者のみなさんと関わりを続ける制作活動に関心を寄せてくださいました。


最初にお声がけいただいたのは6月頃。夏休みにゼミ生のみなさんが集まる「発表会」のあとに、ZINE体験の時間をというご依頼でした。

感染症の不安もまだまだ強く「なにかを一緒にする」ことを企画するにはハードルも高かった時期。それでも「学生のみなさんのために」とご依頼くださったお気持ちがとてもうれしくて、どんな時間できたらよいだろう?と、少しずつテーマや開催のかたちを一緒に考えてゆきました。

自分がどういう人か、どんなものが好きで、どんな風に生きていきたいかを振り返ったり感じられる日になったらいいなと思っています。(中略)これから進路を考えたりする中では、迷ったり立ち止まったりすることもあると思います。そんな時にも自分の「大切なもの」がZINEの中に綴じられている、時々眺めて携えていこう、というようなそんなものになったらいいなと感じています。

こんな風に学生を想ってくださる先生がいらっしゃること。「誰かに想われている」こともほんのり感じられるようなひとときがお贈りできたらいいな。そんなことを考えながら、ゼミ生のみなさんへ本づくりの時間のご案内ページを作成しました。

【ご案内】#ミニアトリエ「好き」を綴じ交わす よりー

どのような時間にできたらいいかなと、五十嵐先生とメッセージのやりとりを重ねながら考えたのが「好き」を綴じ交わすというテーマでした。

「自分がどういう人か、どんなものが好きで、どんな風に生きていきたいかを振り返ったり感じられる日になったら」(五十嵐先生のメッセージより)

確かに「好き」なものや人のことを考えると、自分のこれまでを振り返ったり、これからへの気持ちが芽生えてきたりすることもありますよね。そしてそんな「好き」を見つめる時間は、ちょっぴりにこにこわくわくしたり、誰かの「好き」を教えてもらうのも大切で嬉しい時間だったりします。

みなさんの「好き」を見つめたり、交わしたり、そのような時間をミニアトリエを通してお贈りできたらなと思います。

とはいえ発表会の大仕事のあとの時間なので、どうか無理のない範囲で。みなさんの心とからだの調子に合わせて自由にお過ごしくださいね。

普段ひらいているアトリエにお越しくださるみなさんも、本をつくったり、読んだり、おはなししたり、何もせずにゆっくりしたりと思い思いに過ごされています。普段のアトリエと同じように、本をつくってもよし、つくらなくてもよし。そんな時間にできたらと思っています。(続く…)

このメッセージの約1か月後、真っ白な手製本や本づくりの道具、素材をトランクに詰め込み、東京家政大学へ伺いました。

この日はラジオで五十嵐先生と出会うきっかけにもなった緩和ケア医の儀賀さんも移動やアトリエのサポートしてくださることになり、一緒に東京家政大学へ向かいました。

会場としてご案内いただいたのは、一面に窓がある広くて明るい教室。まずはできる限り安心な距離をたもってお過ごしいただけるように、4人ずつの小さな島を5つ離してつくりました。

教室のうしろに大きな大きな島を1つだけつくり、素材の島に。手製本や素材、道具をずらりと並べてゆとりをもってお選びいただけるように設えました。

午後からはじまったプログラムの最初は「発表会」。ゼミ生のみなさんがそれぞれに関心を持った研究テーマの発表される時間で、儀賀さんとわたしも一緒に聴講させていただきました。

3年生は複数人のグループで、4年生はそれぞれの卒業論文のテーマに向かって、大学院生はより深い理(ことわり)を見いだす旅路へ……心理学を専攻されるみなさんの発表をお聴きすること自体が初めてで、それぞれの研究テーマと今日まで見いだしてきたものをお聴きするだけでもとても新鮮な学びの時間でした。

これまでもさまざまなさまざまな学問を専攻する学生のみなさんとご一緒する機会がありましたが、異なる学問を専攻する学生さんと出会う度に、学問が持つ社会へのまなざしの向けかたや人との関わりかたの異なりを強く感じてきました。

もちろん学生のみなさんお一人おひとりの個性や、その土地の色、師事されている先生のフィールドの個性もあるという前提はありますが、その言葉の基となるそれぞれの学問の姿勢のようなものも感じるような。

学生のみなさんの「心理学」のそのまなざしの向けかたに感じ入っているうちに、あっという間に「発表会」が終わってしまいました。


休憩のあとは、10分ちょっと自己紹介を兼ねたmichi-siruveの活動紹介をはさみました。

なるべくみなさんの関心ごとである「心」に重なる記憶の欠片を掬いながら、患者家族、遺族として、そして流産とがんを経験した患者として抱えてきた「いえない(言えない・癒えない)いたみ」のこと。“その時々の想い”を見つめたり、交わしたりできる人や場所の選択肢を増やすために、病院や地域で心理師さんも含めた専門職の方と一緒に本づくりのアトリエをひらいていることを中心に少しだけ、アトリエの様子をおさめた写真とともにご紹介しました。

10分ほどの短いおはなしでしたが、その欠片をここにも置いておきます。

おはなしのあとは、いよいよアトリエの時間。素材の並んだ大きな島をみんなでゆるく囲み、並んでいるもののご紹介をしました。そのあとはもう、お好きな手製本や素材を選んでいただいたり、並んでいるmichi-siruve制作のZINEをご覧いただいたりの自由時間に。

「それはね、母がプレゼントしてくれた押し花で…」
「その手製本は全部のページに隠し扉がついていて、こうやってぐっとひらくと中に秘密のことが綴れるの」

時にはそっと見守りながら、時には手にとってくださった手製本や素材のエピソードをお伝えしながら…本当に一つひとつのものに丁寧に触れ、時間をかけて感じてくださるみなさんの様子から、心理学というまなざしで人の心を深く真摯に見つめようとする学生のみなさんの姿勢を感じながらのひとときでした。

しばらくすると、それぞれ選んだ手製本や素材を抱えてみなさんの席へ。同じ島から掬い上げた欠片なのに、選んだ学生のみなさんの一人ひとりの色がある。持ち帰った机のうえにその人の「好き」が浮かんでゆきました。

その「好き」の湖に、持ち寄ってくださったそれぞれの「好き」をあらわす写真や言葉が重なり、真っ白な手製本のページのなかに少しずつおさめられてゆく。少しずつ綴じられてゆく時間がとても愛おしくて、お一人おひとりの本をこっそり覗かせていただきました。

写真にはのこしていませんが、少しでもこの日のしるしを…と、素材の島と五十嵐先生、儀賀さんの「好き」の景色、そしてこの日のアトリエで「おすそわけ」いただいた大切な記憶の欠片を少しだけ共有させていただきます。

今回は「発表会」との2本立てということもあり、本づくりの時間は90分ほど。続きはそれぞれに持ち帰り、完成した頃にそれぞれの本を持ち寄り、「好き」を交わす…シェアの会を持ってくださることに。

「シェアしたら、ぜひ感想をきかせてくださいね」とちいさな約束をして、素材や道具をトランクに仕舞いなおしてこの日は一区切りとなりました。


そしてアトリエから3か月ほど過ぎた12月の終わり、五十嵐先生から完成した本のシェアの会をひらいたことのご報告と、体験してくださった学生のみなさんからの感想メッセージをいただきました。

3か月という月日を経て、みなさんの心のなかで育まれたもの。誰かと交わしたからこそ知れたこと、気づけたこと。みなさんが丁寧に綴ってくださったメッセージから、そのおすそ分けをいただけた気持ちです。

手を動かすなかで生まれる「発見」もあれば、ふと生じる「迷い」もある。

みんなと一緒の時間だからできることもあれば、一人になってじっくり時間をかけてこそできるものもある。

完成させるよろこびもあれば、完成させずに「続き」のこすたのしみもある。

シェアすることで気づいた「一緒」もあれば、見いだした「わたし」らしさもある。

「比べてしまう」戸惑いの先にある、「比べるものではない」という気づきもある。

みんなの「好き」や「その人らしさ」を知るよろこびもある。

わたし自身がこの活動を続けるなかで感じてきた感情や気づきと重なるメッセージもたくさん綴られていて、その感情が共有できたことがとてもうれしかったです。1年の終わりに、すてきなプレゼントをありがとうございました。

最後に、みなさんの感想のお返事を書こうと思ったのですが……最初にこのミニアトリエのご依頼をくださった五十嵐先生のメッセージが、きっと一番のお返事になるのだろうなと。そのメッセージをレポートの最後にもう一度置かせていただいて、この「好き」を綴じ交わすの大切な記憶とさせていただきます。

これから進路を考えたりする中では、迷ったり立ち止まったりすることもあると思います。そんな時にも自分の「大切なもの」がZINEの中に綴じられている、時々眺めて携えていこう、というようなそんなものになったらいいなと感じています。

みなさんの「好き」と一緒に過ごしたかけがえのない時間を、本当にありがとうございました。

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