【Report】「大切」をともにみつめる @関西学院大学 人間福祉学部 人間科学科

2023年10月、母校でもある関西学院大学 人間福祉学部 人間科学科 藤井美和先生のゼミで、お話会とミニアトリエをひらきました。

10月3日(火)は「大切」をともにみつめるというテーマで、学部の卒業生として在学中からその後の人生についてのお話を。2週間後の10月17日(火)は「大切なもの」をみつめるというテーマでミニアトリエをひらき、学生のみなさんがご自身の「大切なもの」をみつめて綴じる本(ZINE)づくりの時間を。

2つの時間を通して、それぞれの「大切なもの」をみつめ、分かち合うひとときをご一緒しました。


関西学院大学 人間福祉学部は母校であり卒業した学部です。在学当時は社会学部 社会福祉学科で、今回お声がけくださった藤井先生は在学時に受講した「死生学」の先生でした。

藤井先生との出会いと再会については2019年にゼミへお伺いした際のレポートにも綴りましたが、大学卒業後、29歳で流産から絨毛がんという希少がんになり、死生学の授業で学び感じたことや藤井先生の存在は、がんになったそのあとの日々を生きてゆくことの支えでした。

治療に区切りがついた4年後、母校の式典でお礼のご挨拶に伺うと、10年以上昔の卒業生にも関わらず本当にあたたかいことばをかけてくださり、2019年のゼミで春は卒業生として卒業後の人生についてのお話を、秋は病院や地域でひらいている本づくりのアトリエを体験していただくワークショップをひらきながらゼミの学生のみなさんとともに「大切なもの」をみつめる機会もいただきました。


その2回を終え「ぜひまた来年も」と小さな約束を交わした翌年、2020年からの感染症が流行し、約束が叶わないまま時が過ぎました。本来の授業に戻った2022年に一度お声がけをいただいたのですが、こちらの事情でお伺いすることができず。翌年2023年の秋、4年ぶりにお伺いできるようになりました。

4年ぶりのお話とアトリエ。みなさんにどのような時間をお贈りできたらよいだろうと考えていた時に、藤井先生からメッセージをいただきました。

先輩としてのお話を聞かせていただいたり、
その後の人生について、貴重な体験や思いを聴かせていただき、
そして、最後にそれぞれが自分の人生を振り返っての豆本の作成。
ZINEはそれぞれの人生を振り返るきっかけになると思います。

今の4年生は1年生の春から丸2年間、オンラインの授業で学生生活を過ごされていたこと。メッセージのやりとりを通して、藤井先生が学生お一人おひとりを大切に思う気持ちを受けとりながら、大切なゼミ生のみなさんが集う貴重な秋学期のゼミの時間を2回も委ねていただけることがとても有難く、責任も感じました。

ご依頼のとおり、みなさんにとって何かご自身のことを振り返ったり、これからのことを考えたりするようなひとときをお贈りできたらと、お話の構成やアトリエの設えを相談しながら考えて、1回目の会は「大切」をともにみつめる〜誰かの「大切」の呼び水になるということ〜という題でお話させていただきました。

一部ですが、スライドとともにお話の内容も綴りのこします。

第1部では「わたし」のことというテーマで、まずは被災者の家族・友人、患者家族としていろいろな「いえなさ(言えなさ・癒えなさ)」を感じ、いえなさを引きずりながら過ごした10代の日々のことを。

次に、いえなさを抱えた人たちと関わる術を求めて関西学院大学へ進み、学びながら感じていたことを。そして、福祉専門職への道を諦めメディア制作の道に進んだこと。初めての妊娠・流産からのがんの治療を経験し、子どものいない人生を歩むことになった今のわたしのことを。

「学生時代にこの想いは誰にも打ち明けられなかったけれど」という前置きを大切に「いえない学生」だった一人の人生の一片をいくつか託しました。

第2部「手製本」のこと、第3部「アトリエ」のことでは、ZINE制作やアトリエの活動を通して出会ってきた人たちの「わたし」のことを、本やアトリエの写真とともに少しだけご紹介しました。

2部と3部は写真から感じていただくかたちで、言葉は少ない紹介に留めました。きいてくださっていた様子やご感想から、画面に浮かび上がる写真や語られない余白からも豊かな何かを感じとってくださっていたように思います。

さまざまな方々の「わたし」に触れることで、みなさんの「わたし」をみつめるきっかけをお贈りできたらいいなと、そんな時間でした。

お話のなかでひとつ、藤井先生のゼミだからこそお話できたことがありました。それは、昨年我が家に迎えた岡野香さんというアーティストさんが制作された陶器の天使を迎えた時のお話でした。

9年前に流産により失ったちいさないのちが「在った」ことを共有するために、8年経ったクリスマスに夫と一緒に迎え「そらくん」と名付けた天使のこと。壊れた天使を修復することで、わたしの「大切」を同じように大切にしてくれた夫の関わりを通してあらためて感じた、自分や誰かの「大切なもの」を分かち合い、ともに大切にすることの力について。

この話をあたたかなまなざしてきいてくださったみなさんにも、大切にしていただいたなと感じました。


もうひとつだけ、お話の最後に資料に入れずに口頭でお伝えするつもりがつい言い忘れてしまったことがあります。

今回資料に入れて手渡した人生の一片は、どちらかというと「あたたかな気持ち」の含まれるものが多かったのですが、資料で触れなかった人生の余白には、身近な人と分かりあえない苦しさや、後ろ向きないろんな感情、誰かを傷つけてしまった後悔もたくさんあったということです。

それはわたしだけではなく、手製本やアトリエの活動で出会ったみなさんも、大なり小なりそれぞれに抱えていらっしゃいました。そんなことを分かち合う関わりのなかで、何かの尺度でみて、前向きで明るく好かれるようなわたしばかりでなくても大丈夫なのだとほっとした経験もたくさんあったように思います。

授業という場では具体的にはお伝えできませんでしたが、今みなさんの手の中や心の中にある記憶や感情、関係性、抱えているものも、いろんな色やかたちをしているかと思います。どんなものであっても大丈夫で、それを抱えたあなたも大切に思いたいということはお伝えしたいなと思っていたので、ここでそっとお贈りします。


お話のあとは2週間後の本づくりの時間について、アトリエで使う手製本のサンプルや、お話の中で紹介した豆本などを机に並べてみんなで囲み、1冊ずつ手にとっていただきながらわいわいとお話の時間を持ちました。

1回目のお話の会の時間はここまでです。一人の卒業生の人生を辿りながらの「大切」をともにみつめる90分、みなさんにとってどのような時間だったでしょうか。

途中でも綴りましたが、わたしにとっては、お話をあたたかなまなざしてきいてくださる様子に「大切にしていただいたな」と感じた時間でもあり、そのみなさんのあり方に教えていただいたことがたくさんあった時間でした。

拙いお話だったかと思いますが、一緒に時間を過ごしてくださりありがとうございました。2週間後のミニアトリエの様子は、次のレポートに綴っていますので、こちらをご覧ください。読んでくださりありがとうございました。

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