2023年7月29日(土)~7月30日(日)、公益財団法人 日本臨床腫瘍学会主催の「医学生・研修医のための腫瘍内科セミナー」にて、がん経験者として体験談をお話する機会をいただきました。
腫瘍内科医を志す医学生、初期研修医、専攻医のみなさんが集まり、同じ志をもつ仲間とともに学び・語り合い、これからのキャリアを考えるきっかけとなる場として2018年から開催されてきたというこのセミナー。腫瘍内科医として大切な知識についての講義やケーススタディ、グループごとの話し合いに重きを置いたグループワークなどが盛り込まれた2日間のプログラムで構成されています。
今年のグループワークのテーマは「Cancer Journey」。そのワークを通して、一人の患者さんの人生に腫瘍内科医としてどう伴走してゆくかを考える議論を醸成する一助となるようながんの体験談をお願いしたいというご依頼をいただきました。
最初に体験談のご依頼をいただいた時「わたしでよいのだろうか?」ととても戸惑いました。抗がん剤治療を受けた経験はあるとはいえ9年も前の話で、再発もなく寛解・治癒した体験しかなく、腫瘍内科医の先生に治療していただいた経験もない。そんな体験からどんなお話をしたらよいのだろうかという不安が大きかったからです。
ただ、今回わたしを推薦してくださった国立がん研究センターの「患者・市民パネル」でつながりのあった浦嶋偉晃さんとこのセミナーの企画を担当されている奈良県総合医療センターの東光久先生が、以前わたしが出演した「がんノート」さんでお話したがんの体験談をみてくださったうえでのお声がけだったとのこと。
ある日突然にがん患者となり治療を経験した等身大のがん体験やその時感じた素直な気持ちを話していただけたらというご依頼だったので、今回のセミナー全体の流れもお伺いしながらグループワークのテーマの「Cancer Journey」という言葉を中心に置きながら内容を考えました。
体験談の中心にあるのはいつもと変わらず、がんという「わたし」そのものを揺さぶられるような体験にのまれてなかなか本音が「いえなかった(言えなかった・癒えなかった)」患者としての体験です。
がん患者になった日を境に、突然押し寄せてくるさまざまな変化や情報をすべて受け止めながら、次から次へと決断を迫られること。心や体が弱ってゆく中、限られた時間で患者が自ら今の気持ちやこれからの希望を見出し、意志を決定して言葉にすることの難しさ。
さらには、産婦人科という生と死のコントラストが強い環境で流産からのがん治療を受けるつらさや、時間のない中多くの患者の治療に尽力されている医療者の方へ遠慮してしまう気持ち。そして患者の回復を望む周囲に、前向きになれない本音を伝える難しさ。
「言えない」からこそ「癒えてゆかない」もの。そんな「いえなさ」を抱えた患者の「これまで」や「今の気持ち」を一緒に見つめてくれた専門職の関わりで、少しずつ「言える」ようになり、自らの「これから」を見出し「癒えて」いった日々のこと。あくまで個人的な体験からお話できる範囲ですが、今までの講演では踏み込まなかった葛藤や周囲とのやり取りも含めてお伝えしました。
体験談の後、先生方がそれぞれご自身のご経験を手繰り寄せながら、誰かの顔を思い浮かべながら話しかけてくださったことがとても印象に残っています。みなさんが日々向き合われている現実や日常と何かしら地続きの体験を言葉にしてお渡しすることができたのだとしたら、少しはご依頼に応えることもできたでしょうか。
お話した「いえなさ」自体を和らげたり解消したりする術を掲示できるような体験談ではないので力不足も感じますが、そんな風に「ご自身の日常」に引き寄せて感じてくださったのは、先生方がお一人おひとりのことを想いながら日々診療をされているからこそなのだろうなとも思います。また、慣れない場所で上手く話せず不安気なわたしに対しての思いやりの声かけであることも伝わってきて、先生方のそのお気持ちや声かけが患者としてとてもあたたかく、ありがたかったです。
一方で、医療を専攻するみなさんに患者として体験談を話すことには変わらず難しさも感じます。患者として抱えた「いえなさ」自体は、がんという病そのものがもたらすものや社会の構造的な問題、社会全体との関わりのなかで生じたものだと思うのですが、医療者のみなさんにお話しすると、それは医療によって生じたものと伝わってしまうように感じることも少なくないからです。
治療で命を助けてくださったみなさんには本当に感謝しているという気持ちもちゃんと伝えたいのに、短い時間で話をまとめられず「この話でよかったのか」「誰かを嫌な気持ちにさせてしまっていないか」といつも反省が尽きません。「患者であること」の矢印をもっと自覚して、語りのあり方も含めてまだまだ考えなければいけないと感じています。聴いてくさったみなさんの感想も受け止めながら、引き続きこれからも考えてゆきたいです。
もうひとつ、体験談のあとに質問にきてくださった方の問いについて、今もぐるぐると考えています。その時に上手くお答えできず申し訳なかったのですが、患者として支えになった人の関わりは、人生経験も含めて「同じ体験を有していること」以上に「同じ体験をしていないということを受けとめたうえで、その体験がもたらすものや揺れ動く患者の今をともに感じることを諦めずに傍にいてくれた人」なのかなと思います。
それが治療中支えてもらった看護師さんや、夫や家族や友人など今も変わらずこのわたしとの関わりを続けてくれる人たちのあり方だったのかなと。いただいた問いから、そんなことにと気づくことができました。
今回は1泊2日のセミナー全体に参加させていただいたこともあり、セミナーを通して参加者のみなさんがどんな時間を経験されるのか、語り合われていることも聴かせていただき、その時間から学ばせていただくことがたくさんありました。
また、プログラム以外の時間でも、先生方のお話をお聴きする機会にたくさん恵まれました。患者にそれぞれの日々があり人生があるように、先生方にもそれぞれの日々があり人生がある。そんな当たり前のことを、病院というそれぞれの「立場」から逃れられない緊迫した空間を離れて人と人としてお話を聴き実感することができたその時間は、患者としては本当にありがたい時間でした。そんな日々、人生のなかで患者・家族と向き合ってくださる先生方にも、あらためて感謝の気持ちでいっぱいになった2日間でした。
最後になりますが、今回お話させていただくきっかけをくださり、セミナーにも同行してわたしが隅っこで縮こまらないようにサポートしてくださった浦嶋さん。そして細やかなお心配りとともに企画運営をしてくださった日本臨床腫瘍学会のみなさん、本当にありがとうございました。
人との出会いに支えられているなということを改めて感じながら、今回学ばせていただいたことを胸に、これからも一つひとつのご依頼に精一杯向き合いながらできることを重ねていきたいと思います。
参加者のみなさんが綴ってくださったレポートも公開されていました。
真摯に頷きながら聴いてくださっていた方や懇親会や講演後に話かけてくださった方のお名前もあり、お手紙のように綴ってくださった文章を大切に読ませていただきました。拙い体験談を受けとってくださりありがとうございました。
みなさんのこれからを、陰ながら応援しています。
>>医学生・研修医のための腫瘍内科セミナー(MOS2023 in Summer)報告
>>医学生・研修医のための腫瘍内科セミナー Report