【Report】「記憶のアトリエ」 in 大阪

2023年4月23日(日)、 NPO法人 いのちのケアネットワークのみなさんと、大阪府内で約3年ぶりに「記憶のアトリエ」をひらきました。

感染症の流行以降、オンラインのミニアトリエや短めの時間に設定したミニアトリエなど、参加者のみなさんの安心が守られるかたちを模索しながらちいさく続けてきた本づくりのアトリエですが、久しぶりのゆったりとした開催。そのあたたかな記憶を少しだけここにも記します。


ご依頼をくださったのは、NPO法人 いのちのケアネットワークの代表・森川和珠(わこ)さん。出会いのきっかけは昨年春に出演した、医療と教育に関わる3名の“まなびすと”のみなさんがひらかれている『M-Educational CAFÉ ~ラジオみたいなの~』でした。

感染症の流行で「会う」ことが難しくなった2020年の秋からオンラインのらじおとして、ゲストやリスナー、そして“まなびすと”のみなさんがその時々に感じたり大切にされていることを語りあっていたカフェで、ゲストやリスナーとしてご一緒していたわこさん。昨年11月に大阪で開催された「ホスピタルアート in ギャラリーIV」というイベントで、らじおの“まなびすと”のお一人でもある緩和ケア医の儀賀理暁さんとわたしが出演したトークセッション「ホスピタルアートを考えるその前に」をききにしてくださり、ようやくお会いすることができました。

その折、アトリエの活動にも関心を寄せてくださり、わこさんが代表をされているいのちのケアネットワークのメンバーのみなさんが集う年次総会の日に、ぜひ「記憶のアトリエ」をというご依頼をいただきました。

「記憶のアトリエ」をひらく時、一番最初に大切にするのはご依頼くださった方の想いです。そのはじまりの想いを、アトリエに集ったみなさんともじんわり感じあえるひとときをお贈りできたらいいな。いつもそんな気持ちでアトリエをひらきたいと感じてくださった想いを一緒に見つめながら、どんな時間にしようかと一緒に考えてゆきます。

NPOのHPFacebookページも拝見しながら、みなさんが「ケア」ということばとともに歩まれてきた7年、そしてこの3年の制限のなかでも大切に重ねてこられたことも少しだけ覗かせていただきながら……オンラインでおはなししたりメッセンジャーでの対話を重ねながら、少しずつアトリエで大切にしたいことを見つめるなかで、ぽっと灯ったメッセージがありました。

NPOをやっているからそこではみんなが「ケアする人」ってわけじゃなく…
どちらかというと、みんな「ケアしあう人」になるというか…

みんながどんどん優しくなると、ゆったりとケアされることに身を委ねにくくなってる人もいたりするんだよな…と思っていて。。わたしの大切なもの、わたしの大切な記憶、を、心から大切にできる場と時間をみんなに体感してもらえたらな…と。

ケアしあう人」になる。
場と時間を体感する。

そんなわこさんの想いをじんわり感じあえるひとときがお贈りできたらと、NPOのメンバーのみなさんへ「記憶のアトリエ」~ ケアしあうひとときを ~というご案内を作成しました。そしてみなさんにお贈りしたことばをわたしも抱きしめながら、3年ぶりとなるアトリエの準備をはじめました。

事前にリクエストいただいた手製本を中心に、約30冊。大判のロール紙をテーブルいっぱいに広げて少しずつ本のサイズに仕立てたり、小さなパーツを一つずつ切り出して1ページずつおさめたり。少しだけ余った紙片は小さな封筒に仕立てなおしたり……。冬から春へと向かう日々のなかで少しずつ綴じ、合間合間にわこさんともメッセージを交わしながらアトリエ当日を迎えました。

会場としてご案内いただいたのは、グリーンや木のぬくもりを感じる空間。何人かでおはなしができるテーブル席の島がいつくか、奥には靴を脱いでみなさんでくつろぐことができるラグのエリアもあり、一人ひとりが思い思いに過ごすことができる余白がありました。

今回は奥のラグのある空間に素材の島をつくって手製本や素材、道具をずらりと並べ、手前のテーブルスペースはアトリエから離れてゆっくりできるスペースに。少しずつ集まってこられたメンバーのみなさんのお久しぶりやはじめましての声をききながら、ここにお越しなるまでに重ねてこられた日々を想いました。


総会も参加させていただき、NPOを設立されてからの7年間も含めた昨年1年の歩みとこれからの1年への想いをそっと受けとりながらアトリエの時間へ。

すると、「ハッピーバースデイ♪」の贈りものが…その日がわたしの誕生日であることに気づいたメンバーのみなさんが準備してくださっていたのでした。うれし恥ずかしのありがとうございますを経て、あらためて自己紹介。「記憶のアトリエ」はふだんは病院や地域で、医療者や福祉の専門職のみなさんと一緒にひらいている移動アトリエであること。本を読んでもつくってもつくらなくても自由にお過ごしいただけること。そしてアトリエにある道具や素材をふわっとご紹介して、あとはみなさんご自由に…と、いつものアトリエの時間がはじまりました。

奥のテーブルでゆったりとおはなしされている方、会場の綿あめ機で綿菓子づくりに挑戦されている方、手製本をじっくりご覧になられている方、素材や道具を早速集めていらっしゃる方…みなさん思い思いに過ごされている様子にほっと一安心しながら、本づくりの島の近くでみなさんの声に耳を澄ませます。

「和紙に印刷するだけでとってもあたたかくなるね」
「この半透明の袋に入れるだけでこんなにやさしくなるんですね」
「この手製本なら立てて飾ることもできるね」
「大切な紙の切れ端も、こんな風に小さな封筒にできるのね」
「押し花やシールもたくさんあるのね」……

手製本にこめた「ことばにならないちいさな思いやりの種」の数々を繊細に感じとり大切に触れてくださったり、「掌の記憶」や「otomo.」など、記憶を綴じた手製本をじっくり読んでくださったり。「ケア」ということばのもとお一人おひとりと丁寧に関わられているメンバーのみなさんのやさしいまなざしを感じて、そこに居るだけであたたかな気持ちになりました。

しばらくすると、わこさんが白い紙で包まれたなにかをそっと運んで空いているテーブルの上に広げてくださいました。今日のアトリエのためにと手づくりしてくださった押し花やおうちにあったシール、お店で見つけてくださったキラキラと光る色とりどりの紙たちでした。

「わぁーきれい!」
「どうやったらこんなにきれいに押し花できるんですか?」

サクラ、シバザクラ、ユキヤナギ、パンジー、カスミソウ、チューリップ…ふわりとひらく花の微笑みにメンバーのみなさんも集まり、一輪、また一輪とみなさんの手元へ。しばらくするとアトリエのあちらでもこちらでも、まっしろな手製本のページのなかに記憶の華が咲きはじめました。

「アトリエに集うみなさんを想って寄せられた記憶の欠片」が「手にとった方の心の中にある大切な何か」の呼び水となり、重なりあっていく瞬間に立ち会えることが何よりもうれしくて、その時間が愛おしくて仕方ありません。

綴られていらっしゃった大切な記憶はお一人おひとりにそれぞれで、その記憶を少しだけ一緒に覗かさせていただきながら、時々おはなしもしながら。あちらこちらで育まれるちいさな記憶の華たちを見つめながら、「あぁ、一番大好きな時間だなぁ」とじーんとしていました。

おはなしに夢中になっていたら、あっという間に時間が過ぎてアトリエを仕舞うお時間に。写真におさめ、ことばにしたい景色に溢れたひとときでしたが、それは心の中に。このレポートを読んでくださる方へのおすそ分けとして、2枚だけ許可をいただいておさめた写真をここにも置かせていただきます。

撤収はメンバーのみなさんにもたくさん助けていただきながら、会場いっぱいに広げた記憶の欠片をトランクに仕舞いなおし。本当にあっという間でしたが豊かで、そしてこれきりではなく、きっとまたどこかでお会いできるような。そんなあたたかな時間をともにして「またお会いしましょうね」とご挨拶して会場をあとにしました。

行き道は重くてひーひー言いながら転がしてきたトランクがすっかり軽くなっていて、その分誰かが持ち帰ってくださったのだと思うととてもうれしかったです。

自宅アトリエに戻ってトランクから道具や素材を取りだし整理しながら、わこさんからいただいた押し花やうつくしい紙たち、メンバーの方からいただいた「ノーサイド横沼」のアーティストさんの色彩豊かなポストカードを広げてにっこり。次のアトリエ用に仕舞いなおしました。

わこさんともちいさなメッセージを交わしながらその時間を味わいながら、2晩ほど経った頃、こんなメッセージをいただきました。

「しつらえられた場」でのひとときも、もちろんすごく大事ではあるんですが…
記憶のアトリエのように、ただその人が、
なんでもないけどかけがえのない「ただのわたし」になって過ごせるという、
そういう場が、ケアや癒やしや傾聴をふわっと起(た)ちあがらせていて、
そこにいる人たちを、あちこちで空気の層が重なり合うように包んでいく…。
そんな時空が、どの人にもあるといいなあ、と。

「ただのわたし」になって過ごせる場だからこそ、ふわっとたちあがるもの。ああ、わたしが大切にしたいのはそんなものなのだなぁと。一緒に過ごしてくださったみなさんが感じ、お贈りくださることばに、気づきと力をいただいた久しぶりのアトリエとなりました。

「記憶のアトリエ」~ ケアしあうひとときを ~そのことばどおりの時間だったなと、そんな気持ちです。

参加してくださったみなさんにとっては、どんな時間だったでしょうか? この日持ち帰った記憶の種がそれぞれの心の中で育まれ、いつかまた、本と記憶とともにお会いできることをたのしみにしています。かけがえのない時間を本当にありがとうございました。

アトリエのトランク
このページの内容