「意味」#掬することば

(この文章はnote「掬することば」からの転載です)

認定NPO法人マギーズ東京の共同代表理事でもある鈴木美穂さんの著書『もしすべてのことに意味があるなら がんがわたしに教えてくれたこと』が出版されました。発売日だった昨日、大阪の本屋さんで平積みになっていたのを見つけて持ち帰り、一気に読みました。

わたしは美穂さんと同じく、20代で罹患したAYA世代のがん経験者です。歳は美穂さんと1歳違い。がん種は違いますが、女性として大切な体の一部が蝕まれてしまうがんという意味では重なるところがあります。業界は違いますが、わたしもがんになるまでは「伝えること」のチームの一員として働いていました。判った時のステージも(わたしの場合は厳密にはステージ不明ですが)、抗がん剤の副作用も、治療を終えた「そのあと」傷ついたことや悩んだことも、美穂さんが綴っていらっしゃる経験に重なるところがたくさんありました。

そんな美穂さんの存在を知ったのは、わたしががんになり、治療を終えて2年を迎えた2016年の終わりでした。若くしてがんになり、同年代のがん経験者に出会うこともできず。自分が失った未来の中にいる元気な同年代の姿がまぶしくて、どんどんこもりがちになり孤独を深めていました。そんな時、マギーズ東京がオープンしたこと、そしてその共同代表を務める女性が自分と1歳違いのがん経験者の方だということを、友人のSNSの投稿で偶然に知りました。

「マギーズセンター…」そう、大学で社会福祉を学んでいた頃、イギリスにはマギーズセンターという場所があるということを教わったことがありました。「あのマギーズを、日本で実現させたんだ」というのが最初の衝撃でした。改めてマギーズの想いに触れ、がん患者となった今の自分が一番必要としている場所だとも。

そうしてどんどん調べていくと、美穂さんの経験が掲載されたメディアがたくさんあって。闘病中のつらい記憶も、自分の弱さも、感じてきたこともひっくるめて、まっすぐに伝える美穂さんのことばに触れることができました。

「自分だけじゃなかったんだ」と孤独が和らいだ部分もあれば「わたしもいつか美穂さんのように、この経験を無駄にせずに、今を生きる人の力になることにつなげたい」と前を向くきっかけにもなりました。実際にマギーズ東京を訪れスタッフの方に迎えていただき、若年がん経験者として抱え続けてきた悩みを整理するきっかけももらいました。

そんなわたしですから、出版された本に綴られた美穂さんの記憶に、自分のがんの記憶も重ねながら読むことになります。同じようにがんを患い、先に旅立っていった大切な友人や家族のことも重なります。ページをめくるごとに色んな感情の波がきて、ずっと違う種類の涙が溢れて泣いていました。

美穂さんの本を読んで一番感じたことは、自分の目から、心から溢れる涙と感情の種類の多さでした。告知されたその日から10年です。かなしいだけじゃない。つらいだけじゃない。くやしいだけじゃない。ありがたいだけじゃない。うれしいだけじゃない。自分の人生という意味でも、今ともに生きている人たちの人生という意味でも「がん」だけじゃない。

罹患してから10年、がんに影響を受けた人のために、そしてがん以外でも、がんと同じように大変な経験をされている人のために。全力で駆け抜けてこられた美穂さんからだと思います。

本の中には大事に持っておきたいことばがたくさん綴られていましたが、その中でも「すべての人のためにはなることはできないと割りきる」の章が、今のわたしにはとても響いて。美穂さんにもご了承いただいて、ここでも少しだけ引用して掲載させていただきます。

誰かにとってはありがたい灯台のような存在でも、誰かにとってはまぶしすぎたり目障りだったりすることもある。同じ病気や経験でも、同じように捉えられるとは限らない。(中略)同じように寄り添ったつもりでも、助けになることもあれば、なれないこともある。

でも、どんなに悩んでも、結局は自分にできることを最大限、愚直にやるしかない。わたしが行動し、発信することで役に立つ人が一人でもいるならば、その人のために頑張りたいと思っています。

マギーズはそういう感情もひっくるめて、『それでいいんだよ』と一人ひとりをそっと抱きしめるような存在であれたらと願っています。

何かを伝えるとき、何かをするとき「一人も傷つけない」というのは難しいことです。誰かにとっては灯のようなことばが、別の誰かにとっては胸に突き刺さってしまうこともある。考えて考えて伝えた想いでも、ことばや事実の一部を切り取られてしまって、つらい気持ちになることもある。

それを全部受け止め、引き受けた上で「それでも役に立つ人が一人でもいるなら」と行動し、発信し続ける。助けになれなかったということも受け止め「それでも一人ひとりをそっと抱きしめるような存在であれたら」と想像力を注ぎ続ける。

がんになったから、がんを経験して10年走り続けてきたから。それ以上に、美穂さんという人だからこそなのだと、この2年美穂さんとお話したり、美穂さんのことばを受けとったりする中で私は感じています。

だからわたしは、美穂さんが、マギーズ東京が本当に大事で。がんになった「そのあと」を生きるひとりのがん経験者として、また患者家族の経験から社会福祉を学んだひとりして、応援しています。いろんな人に届いて欲しいと思うので、個人的な気持ちですが、感じたことを綴ってみました。

本の冒頭に綴られているお手紙。あの日聴いた美穂さんの声とともによみがえって涙が止まりませんでした。

最後に…本を読む前から気になっていたのですが、読み終えて、タイトルにあった「意味」ということばともう一度向き合いたくなり「意味」ということば自体の意味を調べてみました。

いみ【意味】
1 言葉が示す内容。また、言葉がある物事を示すこと。
2 ある表現・行為によって示され、あるいはそこに含み隠されている内容。また、表現・行為がある内容を示すこと。
3 価値。重要性。

デジタル大辞泉

もう少し踏み込んで、手元にあった『漢字源』で、一文字ずつの意味も引いてみました。

意【い】
1 おもう。心の中でおもいめぐらす。勝手な憶測をする。
2 こころ。おもい。心中でおもいめぐらせた考え。心中のおもい。おもわく。気持ち。
(上級漢和辞典『漢字源』)

味【み】
1 あじ。あじわい。もののあじの感覚。
2 漢方医学で、栄養のこと。
3 あじ。心に感じるおもしろさ。
4 あじわう。あじをためす。
(上級漢和辞典『漢字源』)

ことばの意味、出来事の意味、出会いの意味、人生の意味……生きていると、節目節目に「意味」ということばと向き合うことがあります。

何かを経験した時、自分の心の中で想いを巡らせ(「意」)、自分の心で感じで(「味」)、自分なりの価値を見出していく。そして自分のことばにすることで自分なりの「意味」を得て、納得して生きてゆくことができるのだなぁと。この本の最後には、美穂さんのことばで綴られた「意味」が綴られています。そのことばは、ぜひ本を手にとって触れてもらいたいです。

本の印税は、全額マギーズ東京へ寄付されるそうです。

2017.1 初めて訪れたマギーズ東京で、美穂さんと

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