2019-01-09

「夢」#掬することば

Flowers 「コットンフラワー」×「ティーツリー」×「イタリアンルスカス」×「フィンランドモス」×「カスミソウ」(2017.02 花店note)

2月4日の「World Cancer Day」に向けて。豆本詩集『汀の虹』の詩を、1日1篇ずつ置いています。3篇目は「夢」です。


「夢」の詩は、罹患当時にわたしが見た夢そのままです。『汀の虹』のひとつ前に制作した『ココロイシ』というZINEの“はじまりの記憶”はこの「夢」の詩のもとになる「悪い夢」という文章からはじまっています。

※流産や死産などの経験を抱えた方にはつらい文章かもしれませんので、本に綴じている表現からは少し変更して掲載します。

 

悪い夢

2014年1月11日 初めての妊娠の喜びも束の間
その日を境に体調を崩し 悪夢にうなされるようになった

一番鮮明なのは 1月22日に見た夢
分娩室で産まれたての男の子を手渡されて抱くと
その子は緑色に溶けて消えてしまった

悲しさと鈍痛で軋む体を引きずり出社すると悪夢から一転
初めて制作したZINE『母のまなざし』が
Photo back award2013を再優秀賞受賞したという報せがきた

母の撮りためた家族写真を再編集したその本の最後は
“近い将来私にも子どもが生まれたら
あなたのように優しいまなざして見守っていこう”
という言葉で終えていたけれど

その本の受賞とは裏腹に 数日後には掻爬手術を受け
しばらくは本を開くことも嫌になり目を背けていた

『ココロイシ』は、がんが寛解した2年の節目に、混乱した自分の心の奥に沈んでいた記憶を、1つずつ手にとって整理するために制作したものです。

海辺で拾い集めたハートのかたちをした石1粒1粒に、短い文章を1文ずつ綴じ込めて。「実際に起こったこと」と「感じたこと」を27つ、淡々とおさめています。綴じたのは展示用の1冊だけで、展示期間のみ人の目に触れる空間に置いているとても私的なZINE、手製本です。

展示会場でこの本を読んでくださった方が「同じような経験がある」と聴かせてくださったり、異なる経験の中に通じる心の変化があったことを教えてくださったり。まだ“ココロ”(文章)の入っていない石のページに、読んでいて心に浮かんだことばを綴っておさめてくださったり。誰かの落とした涙のあとで本が滲んでいたり。

そんな交わし合いを経て「重なる」部分を見つめなおし、表現を再考して置きなおしたのが『汀の虹』でした。

「悪い夢」という文章が「夢」という詩に変わったように、「私的」な色を抑え、手にとった人を傷つけるような表現がないかよく見つめながら。ことばを磨くことで、尖った表現をおさえて置くことを心がけました。

「寛解から2年」と「寛解から3年」という時の経過による変化もありますが、『ココロイシ』というZINEを通した「ことばの交わし合い」で磨かれた部分も大きいと思います。

『ココロイシ』と『汀の虹』。どちらでも綴られているものは実はそんなに多くはないので、貴重な1篇でもあります。

「夢」の記憶自体はかなしいものでしかないのですが、少し前向きなことばを添えたくて。かなしいとき、夫がドライブに付き合ってくれた車の中でよく聴いていたアルバムの響きをひと添えしました。

どれだけつらくかなしい記憶も、今の自分と切り離すことはできなくて、いとおしさにも似た感情がある。そんな風に感じています。

ゆめ【夢】
1 睡眠中に、あたかも現実の経験であるかのように感じる一連の観念や心像。視覚像として現れることが多いが、聴覚・味覚・触覚・運動感覚を伴うこともある。
2 将来実現させたいと思っている事柄。
3 現実からはなれた空想や楽しい考え。
4 心の迷い。
5 はかないこと。たよりにならないこと。
(デジタル大辞泉)

『汀の虹』のみちしるべ 
『汀の虹』は、がんによる孤独の中で握りしめていた“ことばの欠片”を道標に制作しています。握りしめていた“ことばの欠片”の大半は、それまでの人生で大切な人から贈られたことばや、何度も触れた本や音楽、映画のことばでした。

そこからことばをひとつ手にとってはタイトルとして置き、心の奥に沈んだ治療前後の記憶を一つずつ掬い上げ、重ね綴っています。この本や歌、映画の中にあることばや情景をみちしるべにしていたような…という作品のタイトルだけ、最後に添えていきます。(以下、敬称略)

「夢」
Mr.Children『Dear wonderful world』

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