2019-01-18

「探る」#掬することば

Flowers 「 アンモビウム」×「カーリーモス」(2016.9 花店note)

 

2月4日の「World Cancer Day」に向けて、豆本詩集『汀の虹』の詩を、1日1篇ずつ置いています。12篇目は「探る」です。


「かなしい」という感情にようやく気が付いたのは、いつ頃だったのか。今でも思い出すことができません。

がんの治療中は、副作用に耐えることで精いっぱい。とにかく「今死ねない、死なない」それだけが目標でした。それは自分ためという以上に、自分のことを大切に想ってくれている人たちを「今かなしませる訳にはいかない」という意地に近いものでした。

「寛解」という第1ゴールに転がり込むと、次は「再発しない」「元気になる」という目標が目の前に現れました。それもやはり「心配をかけたみんなを安心させたい(できれば恩返ししたい)」という気持ちでした。

その目標までの道のりは遠く、道筋も見えず、医療者という伴走者も離れ、しばらくすると息切れしはじめました。相談できる相手がいない。いつの間にか、治療中よりも孤独を感じるようになりました。

孤独が深まる中、かなりの時間差でどこからともなくこみあげてきたのが「失った」という実感でした。育むはずだったいのちを失ったこと。健康を失ったこと。自分が失ったものの実感がこみあげ、それらはもう戻ってはこないのだと理解したとき、音もなく何かが崩れていくような感覚になりました。

それでも、在った頃の記憶は鮮明にのこっていて、どんどんくるしくなります。心が崩れ、自信を失い、自分を見失い。とにかく「自分」というもののすべてが嫌になります。そうなると、周囲とのかかわりが難しくなっていきました。

でも、伴走者も離れたその孤独の中では、見失っている原因も、孤独やかなしみの理由も、整理することができません。どんどん迷路の中に迷い込んでいきました。

そんな自分を、まわりの家族や社会はどう思ってるんだろう?

「ほんとうは失望しているんじゃないか」
「わたしのいないところでみんなで話してるに違いない」
「どうせわたしなんて」

目に入る光景や、まわりの人からのちょっとしたひと言など、些細なことでも気になって、人のまなざしや声が信じられないし、こわい。見つからないものを探して、裏の裏まで探って。本人も周囲も、本当にしんどい時期だったと思います。

最後に添えている映画は、オールナイト上映で真夜中に観た作品。手元にもDVDがあって、時々部屋を真っ暗にして、劇中の街をさ迷います。

さぐる【探る】
1 手足の感覚などをたよりにして、目に見えないものをさがし求める。
2 相手の考えやようす・動きなどを、それとなく調べる。
3 未知の物事を明らかにするために観察したり調査したりする。探求する。
4 考えられる最もよいやり方をさがす。
5 人に知られていない土地や景色などをさがし求める。美しい景色などをたずねて楽しむ。探訪する。
(デジタル大辞泉)

『汀の虹』のみちしるべ 
『汀の虹』は、がんによる孤独の中で握りしめていた“ことばの欠片”を道標に制作しています。握りしめていた“ことばの欠片”の大半は、それまでの人生で大切な人から贈られたことばや、何度も触れた本や音楽、映画のことばでした。

そこからことばをひとつ手にとってはタイトルとして置き、心の奥に沈んだ治療前後の記憶を一つずつ掬い上げ、重ね綴っています。この本や歌、映画の中にあることばや情景をみちしるべにしていたような…という作品のタイトルだけ、最後に添えていきます。(以下、敬称略)

「探る」
ホセ・ルイス・ゲリン『シルビアのいる街で』

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