「揺らぐ」#掬することば


Flowers 「ハイブリットスターチス」×「シルバーツリー」×「ライスフラワー」(2017.7 花店note)
2月4日の「World Cancer Day」に向けて、豆本詩集『汀の虹』の詩を、1日1篇ずつ置いています。14篇目は「揺らぐ」です。
「治療が終わった」という日から1年くらいは、覚えているようないないような。
前に進むために、前向きなことばを少し前に投げてはそれに向かいというような日々でした。前向きな決心をすることで、それに向かって体を進めようと試みる。前に投げたことばだけを見ていた周囲には「とても前向きな患者」に見えたかもしれません。
でも、無理やり前に置いてみたところで、心身の状態と釣り合わないことばや決心はすぐに揺らぎ、薄い皮1枚隔てた心の中はガラガラと崩れ落ちてしまいます。
絨毛がんの治療がはじまった春という季節が近づいてくると、いっそうしんどくなりました。肌に触れる風や薫りであの日の記憶に引きずり戻され、元いた位置に戻ることすら難しい。
「もう見ることはできないだろう」と思っていた、大好きな桜の季節が目の前なのに。外と内がどんどんちぐはぐになっていく自分をどうしたらよいのかと、途中からは考えることすら投げ出してぐらぐら揺らぐ日々でした。
そんな2015年の春。あれだけもう一度見たかった桜なのに桜の記憶がまったく思い出せません。
それでもぼんやりと、生まれ故郷の故郷の桜の老樹のことは思い出していました。もうあの老樹に一度会いたい。記憶の奥にある桜を想いながら「桜」の描写のある歌を思い出し、つらい記憶ばかりの春が過ぎるのを待っていたように思います。
ゆらぐ【揺らぐ】
(デジタル大辞泉)
1 ゆらゆらと動く。ゆれ動く。
2 物事の基盤が不安定になる。
『汀の虹』のみちしるべ
『汀の虹』は、がんによる孤独の中で握りしめていた“ことばの欠片”を道標に制作しています。握りしめていた“ことばの欠片”の大半は、それまでの人生で大切な人から贈られたことばや、何度も触れた本や音楽、映画のことばでした。
そこからことばをひとつ手にとってはタイトルとして置き、心の奥に沈んだ治療前後の記憶を一つずつ掬い上げ、重ね綴っています。この本や歌、映画の中にあることばや情景をみちしるべにしていたような…という作品のタイトルだけ、最後に添えていきます。(以下、敬称略)
「揺らぐ」
『花』中孝介

