2018-11-04

【Report】記憶のアトリエ in 幸ハウス

2018年11月3日(土)10:00~16:00まで、 静岡県富士市の川村病院に隣接する幸ハウスさんで、2回目となる「記憶のアトリエ」をひらきました。春の幸ハウス夏は富山のお家、そして秋の幸ハウスで3回目を迎える小さな移動型アトリエです。

「幸ハウス」は、小児科医でもある代表理事の川村真妃さんが中心となり、今年の春にオープンした場所。がんになり孤独や戸惑いの中にいる患者さんや家族が、気軽に訪れ、安心して話ができ、自分の力を取り戻せる場所として毎週水曜日に開放しながら、さまざまなプログラムも開催されています。

静岡にお住まいの看護師さんがつないでくださった縁で春にアトリエをひらき、半年ぶりの訪問。今回も川村さんと看護師の植竹さんが変わらぬ笑顔で迎えてくださいました。あたたかく柔らかな空気はそのままに、植物たちがすくすく育っていたり、本棚の本が増えていたり。小さな変化を感じとりながら、前日に設営しました。

本棚の一角に並んでいた、前回の「大切にしているものを見つめるワークショップ」で生まれた作品たち。幸ハウスに来てくださった方々が手にとることができるよう、それぞれのページをコピーして本におさめなおした複製版を寄贈していただいたものです。

ワークショップのあと、持ち帰られてそれぞれのペースで完成させた物語。ご自宅にあったのだろうなという素材が加わっていたり、続きのことばが綴られていたり。ぐっと深まったそれぞれの色を見つめてながら、みなさんのことを思い返しました。

左から『sakura no machi』『otomo.』『かぞくのことば』『母のまなざし

左から『汀の虹』『ココロイシ

汀の虹』の28篇の詩

掌の記憶』29篇の物語

今回も幸ハウスさんの本棚にある棚板や収納箱をお借りして、「大切な記憶」が綴じられた小さな本に触れることができる空間をつくりました。一人で、誰かと、好きな場所で本に触れたり語り合ったり。何もせずに奥のソファでゆっくり過ごしたり。一人にもなれるし、集うこともできる。お越しくださった方それぞれの気持ちを受けとめることができる、広くあたたかい空間があるからこそできる設営です。

前回と変更したのは、壁一面に広がる本棚の前にある大きな木のテーブルを終日アトリエスペースにしたこと。半年間であらたにプレゼントとしていただき加わったたくさんの素材や道具。色とりどりの紙やマスキングテープ、シール、押し花、画材をテーブルいっぱいに並べてお迎えしました。

「大切にしているものを見つめるワークショップ」のかたちも設営後に川村さんと相談し、来てくださったみなさんのタイミングで、好きな時間からやりたいところまで参加していただくかたちに変更。前回よりもいっそう、来てくださった方々がそれぞれのペースでお過ごしいただけるようにと一緒に考えながら「記憶のアトリエ」がはじまりました。

10:00~16:00までという限られた時間ではありましたが、がんを経験された方、川村病院や訪問看護ステーションに勤める看護師さん、グリーフケアについて学ばれている地域の方、幸ハウスに関心のある方やサポートをされている方、そのご友人など、さまざまな方々とご家族、ご友人が途切れることなくいらっしゃいました。

みなさんそれぞれに本を手にとってみたり、幸ハウスのスタッフさんとゆっくりお話をされたり、アトリエスペースで本を綴じてみたり。日常よりも少しだけ深いところを見つめる、静かな時間が流れます。

今回はみなさんが制作された本の様子をご紹介しながら、アトリエに流れる時間を少しでも感じていただけたらなと思います。

1冊目と2冊目は、親子で来てくださったお母さんと娘さん。アトリエにある素材や画材の紹介をすると、女の子はたくさんの素材の中から桜の押し花や雪だるまのシルエットなどを次々見つけだし、春夏秋冬を1ページずつ描いておさめていきました。

最後に小さな封筒を1枚手にとり「10年後のわたし」に向けたメッセージを。「絶対に見ちゃダメ!」と誰にも見えないようにこっそり綴ったメッセージを封筒の中にしまい、封筒を本の最後のページへおさめていました。

10年後にした理由を尋ねると「10年後が20歳だから」とにっこり微笑んで教えてくれました。「20歳になったら、幸ハウスに持ってきてくれたら嬉しいな」という小さな約束もして一区切りでした。

隣で制作していたお母さんは、アトリエにあったあじさいの押し花を見つけて表紙に。活版印刷された文字を手にとり、一文字ずつ拾ってお名前を丁寧につくられていました。途中、娘さんと一緒に手が伸びて、親子で手がクロスした瞬間をぱしゃり。

アトリエのテーブルいっぱいに並んだ素材に触れながら「何を綴じようかな?」と考えながらのひととき。丁寧に仕上げた表紙が、これから「大切にしているもの」を丁寧に見つめなおすみちしるべになりますように。

3冊目は、遠くからお越しくださった方。ご自身のこと、ご家族のこと、今取り組まれてる活動のこと。制作の合間にさまざまなお話を伺いました。

この日は表紙と裏表紙までの制作。グレーの柔らかい紙の上に、真っ白な鳥と羽根と雪の結晶がふわりと舞った表紙。「OVER THE RAINBOW」という言葉が静かに添えられていました。裏表紙にはご自身のお名前と深い関係のあるモチーフを選び、スモークツリーの押し花がふわふわと。残りはご自宅でゆっくり綴られて、また完成版を見せてくださるそうです。

タイトルと綴じ手の名前が刻まれれば、物語ははじまります。「今度お会いするときに」と約束してくださった時のやさしい笑顔を思い出しながら、お会いできる日をたのしみにしています。

4冊目は「記憶のアトリエ」をはじめるよりうんと前から、michi-siruveの「大切な記憶を綴じる」活動をずっと見守ってくださっている方。春のアトリエに続き、忙しい合間にお越しくださいました。

今回は本づくりにも少し参加してくださり、アトリエにあるたくさんの紙から気になるものを選ぶところからスタート。学生の頃から友人のみなさんとZINEのようなものをつくられていたというお話もお聴きしながら。「伝えたい」と感じたものを、自分でことばにして、自分の手で綴じて手渡してゆく。やってみてはじめて実感できるその行為と過程の持つ力を、知っているからこそ見守ってくださっているのかもしれないなと感じながらのひとときでした。

画材を手にとりさーっと描かれた表紙の富士山は、新富士駅に降りたその時に目の前に広がっていた景色そのものでした。この本も、完成したらまた幸ハウスへお持ちくださるそう。たのしみにしています。

5冊目は、前回のワークショップに参加してくださった女性とそのお母さんの作品。最初のうちはお二人で奥の展示をゆっくり見ながら、ご自身の近況やご家族の思い出など、幸ハウスの川村さんや植竹さんとゆっくりお話をされていました。

しばらくしてアトリエスペースも覗きにきてくださり、素材を眺めているうちにご家族の思い出を綴じる本をつくることに。アトリエの素材に触れながら「増えてますね」「これ前になかったな」と、アトリエの景色を細やかに覚えていてくださったのがとても嬉しかったです。

今回はお母さんが綴じ手になり、ご家族のことを思い浮かべながらイメージに近い紙やリボンを本当に丁寧に探されていました。触れている素材を見つめる先には、ご家族の姿と過ごした時間があることを感じながら、1枚ずつ選び、重ねられていく紙やリボンを一緒に見つめたひととき。想いをもって集められた素材には、不思議とあたたかさが宿るということを、改めて感じることができました。

6冊目は、前回も午前中の自由なアトリエ時間に遊びに来てくださった川村病院の看護師さんと娘さん。「前はあっちで座って作ったよね?」と、その時のことを思い出しながら、今回は大きなテーブルに設けられたアトリエへ。

川村病院の一角にある毎月の装飾も、看護師さんと娘さんで共同制作されているそう。ものを作るのが大好きだという娘さんは、白いシルエットの型紙をなぞってガラスペンを使ってみたり、封筒の中にメッセージを入れてみたり。その自由な創作を見守るお母さんのまなざしがとてもあたたかったです。

ご家族も医療関係のお仕事をされているそうで、患者さんが制作された作品を『yohaku』のように綴じて手渡すことのできる小冊子に入れてご家族にお贈りしできたらなぁと。そのような試みが広がるといいなと、市販の素材や道具でより簡単に制作できる方法もお伝えしました。

「アトリエで使ってください」とネイルシールのご寄付もいただき、お気持ちがとても嬉しかったです。次のアトリエで並べて、みなさんにたのしんでいただけたらなと思います。本当にありがとうございました。

7冊目は、訪問看護ステーションの訪問看護師さん。お休みの日に、ご夫婦でお越しくださりました。

一緒に持ってきてくださったのは、事務所移転の際に見つけたという古い画材のセット。以前、利用者さんへのメッセージカードなどを綴る時に使っていたものだそうです。アトリエで使用している画材も、わたしの実家にあったものと同じようなセットで、どうやら同年代の画材。これだけの画材が揃えば「記憶のアトリエ」がない日も、本づくりができそうです。

せっかくなのでこの画材の使い心地を確かめながら、ご夫婦並んで座り、お二人で1冊の本を綴じてくださることに。片側からは夫のページ、反対側からは妻のページ。ご夫婦の想いが1冊の本におさまります。

アトリエの時間ももうすぐおひらきという頃、隣で参加していた女の子が訪問看護師さんの冊子を手にとり、読みはじめました。

ページをすすめると辿り着いた、2羽の白い鳥が一緒に支えた小さな封筒。そっとひらいてみると「一緒にいてくれてありがとう」のメッセージが出てきました。すると女の子が、奥の椅子で休んでいた訪問看護師さんの旦那さんをちらりとみて、また訪問看護師さんの方を見返してにっこり。

誰かを想う心のようなあたたかいものが、あの時テーブルを囲んでいたみなさんにじんわりと伝わった瞬間。わたしにとっても忘れられない言葉になりました。

そうこうしているうちに、アトリエも終わりの時間に。アトリエの片付けもみなさんお手伝いくださり、普段の撤収よりも随分早くまとめることができました。大切な記憶に触れ、綴じるひととき。このアトリエで一緒に過ごした時間自体も、いつか大切な記憶として、思い出すひとときになるといいなといつも思っています。そして誰よりもわたし自身が、生きる力をもらっているようにも感じています。

幸ハウスさんは、毎週水曜日に開放時間に加えて、「記憶のアトリエ」のように五感で感じることや表現することの種を手渡すプログラムを、不定期で開催されています。たまたまその日に集った皆さんが、何かしらの種を受けとりそれぞれの暮らしへと帰ってゆく。その種はすぐに芽が出て花ひらくものもあれば、少しずつ育まれてゆくものもあるかもしれません。

その手渡した種の成長を見守る存在としても幸ハウスのスタッフさんの存在があり「その人が大切にしているもの」というまなざしてずっと見守ってくれる。そんな場所が川村病院という地域密着型の病院に隣接してあり、患者・家族・医療者の枠から少しだけ自由になり、時間をともにしながら生きることを見つめ合う場所として育まれている。

それは、若くしてがんになり孤独を感じた経験者の一人として、また家族として言葉にできない葛藤や後悔を抱えた一人としても、とても心強いことです。そして、アトリエというかたちで時間をともにする中で、このような場所が少しずつでも増えていくといいなと改めて感じました。医療者でも福祉専門職でもないわたしにできることは限られていますが「記憶を綴じる」というささやかな範囲で、専門職のみなさんと一緒にできることをこれからも続けていきたいなと思います。

「記憶のアトリエ」は、また来年春に幸ハウスさんで開催予定です。その時に完成した本、そして今回お会いした皆さんに再会できること、そして次回来てくださる方々とのあたらしい出会いをたのしみにしています。2回目の「記憶のアトリエ」も、忘れられないひとときになりました。本当にありがとうございました。これからもよろしくお願いいたします。

今までアトリエにご寄付いただいた色とりどりの紙やシールなど。大事に使わせていただいています

※「記憶のアトリエ」について
「記憶のアトリエ」は、春夏秋冬それぞれに、お声がけいただいた場所で開催しています。次回は冬、2018年12月15日(土) 兵庫県宝塚市で開催予定です。冬の開催では、がんの経験がある方に限らず「大切な記憶に触れ、綴じる」という時間を大事にしてくださる方にもお越しいただける場にできたらなと思っています。詳細は「記憶のアトリエ」in トコテコ紙芝居小屋をご覧ください。

「記憶のアトリエ」チャリティーグッズ
チャリティーグッズをminne 「michi-siruve charity gallery」やイベントなどで販売しています。
※ご自宅や職場で眠っている紙や文房具などのご寄付もとても助かります。アトリエでお使いいただいたり、チャリティーグッズの材料にして、アトリエ運営のために大切に使わせていただきます。

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Schedule

Exhibition / Event  / WS
12.8 「とよなか産業フェア」@豊中市立文化芸術センター(大阪府豊中市)

記憶のアトリエ
5.27 「記憶のアトリエ」in 幸ハウス(静岡県富士市)
8.12 「記憶のアトリエ」in 音川 (富山県富山市)
11.3 「記憶のアトリエ」in 幸ハウス(静岡県富士市)
12.15 「記憶のアトリエ」in トコテコ紙芝居小屋 (兵庫県宝塚市)

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