「記憶のアトリエ」の“記憶”について

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今年に入ってから、春夏秋冬それぞれに縁のあった町でひらきはじめた「記憶のアトリエ」。

最初はわたしや家族の持っていた道具や素材を集めてはじめたささやかアトリエでしたが、回を重ねるごとにさまざまな記憶が集まってきました。

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「記憶のアトリエ」は、michi-siruveが「“大切な記憶”に触れ、綴じるひとときをお贈りしたい」という気持ちからはじめた小さな移動アトリエです。

アトリエには、わたしが今まで預かってきた「誰かの大切な記憶」を綴じた小さな本や、「ご自身の大切な記憶」を綴じることのできる本づくりの道具や素材が並んでいます。

手ぶらでお越しくださった方でも気軽にたのしむことができるように、普段本の制作で自分が使っているものに加えて、実家の押し入れに眠っていた道具や素材も並べています。

糊やテープなどの消耗品、はさみなどの道具は都度購入しながら補っていますが、道具の大半はわたしが小さい頃に使っていたクレヨンやクーピーなどの画材セットです。

そこに、学生の頃文房具屋さんで買い集めた小さなシールや雑誌の付録。製本の過程でのこった色とりどりの紙片。母や伯母が集めていたフェリシモさんの100枚便箋。妹が海外旅行のお土産で買ってきてくれた絵の具。そして、わたしが普段いただいた花束から萎んで摘んだお花、道で拾った銀杏や桜の紅葉、市場の八百屋さんで夕方に残っていたエディブルフラワーなど……暮らしの中で出会った草花も、少しずつ押し花にして素材として加えて一緒に並べてきました。

専用の紙を取り寄せて制作している「余白をたのしむ小さな手製本」のみ、制作にかかった材料費実費をいただいていますが、その他の紙片でつくった小さな本や道具、素材はすべて無料でお使いいただけるようになっています。

3回のアトリエに加えて、記憶を綴じる活動を知っていただくために商業施設や公共空間などでひらいているZINEワークショップでも共用しているため、最初に準備していた素材の大半は、本づくりを体験してくださったみなさんに本の中へと旅立っていきました。

「さて、これからアトリエの素材をどうしようか?」という時、これからもお越しくださったみなさんに自由にたのしんでいただけて、わたしも無理なく続けられるかたちはないかな?と思い、友人限定で小さく呼びかけてみました。

「ご自宅で、使わないまま眠っている文房具や素材などの“記憶”があれば、アトリエにいただけませんか?」そんな小さな呼びかけに、メッセージをくださる方がひとり、ふたり……と続き、少しずつ“記憶”を寄せてくださっています。

最初にたくさんのシールやマスキングテープなどを持ってきてくださったのが、第1回目の「記憶のアトリエ」をひらいた静岡県富士市の方。「大切な写真が手元に残っていなかったり、絵を描くのが苦手に感じられる方でも、本づくりをたのしんでいただけたら」ということばのとおり。真っ白な本を目の前にすると考えこんでしまう方でも、素材に触れているうちに大切なものを見つけ、本づくりをたのしんでくださる様子に何度も立ち会うことができました。

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「もう処分しようかと思っていた時に、素材募集の呼びかけを見つけて」と、オープンアトリエの日にスクラップブッキング用の海外製の紙をたくさん持ってきてくださった兵庫県宝塚市にお住まいの女性。

michi-siruveが「記憶のアトリエ」をはじめるうんと前、祖母の遺品の展示販売をした企画展からお越しくださって、活動をずっと見守ってくださっている方でした。本に使いやすいサイズに切って並べたり、アトリエの運営費にあてる目的で手製本にして販売したり、少しずつ大切に使わせていただいています。

11月上旬、押し花や紅葉の在庫が少なくなって呼びかけた時、一番にお贈りくださったのは、第2回目の「記憶のアトリエ」をひらいた富山県 音川のご家族でした。「音川から、秋を届けます」ということばとともに、子どもたちも一緒に拾ってくれたお庭や近所の紅葉を、ノートに種類分けして挟んで送ってくださいました。

「包みの中から何だかコロコロ音がするぞ?」と思ったら、まぁるいくぬぎのどんぐりもコロコロと。「みっちゃん、またきてね。」という手書きのメッセージも宝物です。

「イロハモミジ」「ハウチハカエデ」「楓の木」「イタヤカエデ」「錦木」「ドウダンツツジ」「くぬぎのドングリ」「やまぼうし」名前も教わりながら、仕分けして素材の本におさめました。

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昨日、自宅までたくさんの素材を届けにきてくださったのは、ご近所にお住まいの女性。暮らしている町の小さなイベントで出会って以来、記憶を綴じる活動を見守ってくださっていました。

以前から集めていたというたくさんのシールや折り紙、千代紙、デザイン性のある便箋やカード、抜き型の道具や職場から持ち帰った花束で作ってくださったという押し花も。お花が少ないこの季節、やさしいピンク色がアトリエにやってきて、うんとあたたかくなりました。

その夜に届いたのが、山梨県富士吉田市にお住まいの看護師さんからの贈りもの。第1回目の「記憶のアトリエ」に来てくださったご縁で、遠くの町からいつも応援してくださっています。富士山を望む美しい町の彩りを、1枚1枚丁寧に包んで送ってくださいました。小さな野花も、本当にいとおしいです。

御礼のメッセージのやりとりをしていたら、富士吉田市出身のバンド  フジファブリックさんのはなしに。もうすぐ町のチャイムがフジファブリックさんの音楽になる季節なんですね。いつかその音色を、聴きに行きたいなと思います。

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そんなこんなで「記憶のアトリエ」にたくさんの記憶が集まっています。素材の本は、もう本というか蝶々のようにひらいてしまっていますが、探しやすいのでこのままに。

まだ押し葉中ですが、奈良県にお住いの男性からも桜の紅葉を。手元にはまだありませんが、押し花や紅葉を集めてくださっている方々からの嬉しいメッセージもいただいています。

いただいたお花や紅葉は大切に仕分けして、何年何月にどこの町からやってきたものなのか記して本におさめています。贈り主の記憶であり、贈り主が暮らす町の記憶でもあり、わたしと贈り主とが交わし合ったという大切な記憶でもあります。

わたしや家族の記憶を集めてはじまったささやかな「記憶のアトリエ」の「記憶」が、少しずつ広がり、深まっていることを集まった“記憶”からも改めて感じています。記憶を寄せてくださるみなさま、いつも本当にありがとうございます。

次回の「記憶のアトリエ」は、12月15日(土)。兵庫県宝塚市にあるトコテコ紙芝居小屋でひらきます。たくさんの記憶とともに、また新しい記憶との出会いをたのしみに、のんびりお待ちしていますね。

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