【Report】#ミニアトリエ「きむらとしろうじんじん野点 in 服部」

2018年11月25日(日)、大阪府豊中市の寿町公園で開催された「きむらとしろうじんじん 野点 in 服部」で小さなアトリエをひらきました。

豊中市役所の都市活力部  魅力創造課の方々が、アーティストのきむらとしろうじんじんさんをお招きして、豊中で毎年開催されている「きむらとしろうじんじん 野点 」。じんじんさんがリヤカーに陶芸釜や素焼きのお茶碗、うわぐすりなどの陶芸道具一式とお抹茶セット一式を積んで、街のさまざまな場所にあらわれ、お茶碗を焼いてお茶が飲めるカフェをひらきます。


きむらとしろうじんじんさん

じんじんさんの野点は、開催の数か月前にじんじんさんと開催する町の人たち、市役所の方も一緒になって町歩きをして、会場を決めてゆくところからはじまります。

みんなで町を歩きながら「その町らしい」場所を探して、その場所が使えるように市役所の方が交渉して会場を決め、野点当日の絵付けや楽焼きのサポートも町の人たちが関わり一緒にたのしみながら作り上げる。

その日に絵付けをして焼き上がった器を持ち帰るため、会場にはお客さんが待ち時間にたのしむことができる「妄想屋台」という小さな屋台も並びます。この屋台も町の人たちが相談しあって、何かお客さんと一緒にたのしめるような体験を考えながら作り上げています。

今年の会場になった服部は、わたしが今暮らしている町ということもあり、夏に開催された場所決めの町歩きから参加しました。

その町歩きもとても面白かったので、屋台組のひとりとして「公園という空間で何かできないかな?」と、この夏「かげあつめ」でご一緒した浅井さんにお声がけをして「かげあそび」という屋台を出すことに。

浅井さんは、じんじんさんのシルエットをパズルのようなパーツにして公園の中に散らし、参加者の方がパーツを集めてパズルを完成させるような遊びを。michi-siruveはいつも「記憶のアトリエ」で使っている本づくりの道具と手製本の素材を公園に広げ、浅井さんが集めてくださった服部のまちの“かげ”も使って、自由に本づくりができる場所をつくりました。

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公園の木の下にシートを敷き、机代わりにしたトランクのまわりにアトリエの道具を広げると、いつの間にかトランクのまわりに子どもたちがいっぱい。

本づくりをしながら子どもたちのおはなしを聴いたり、つくったおはなしを読んでもらったり。先に本をつくった子が、わたしの代わりに他の子たちにアトリエの道具や素材の説明をしてくれたり。賑やかな創作空間になりました。

地べたの上にシートを敷いただけの空間なのに、みんな本づくりに夢中。色ペンを片手に下書きもなしで『まいごのうさぎ』というおはなしを黙々と創作しながら描き綴るお兄ちゃん。お母さんに手伝ってもらいながら、お兄ちゃんの横で黙々と本をつくる弟くん。浅井さんがくださった白い鳥のシルエットを手にとり「鳥さんは一色だけじゃないからね」と、虹色の色えんぴつを選んで丁寧に色をつける女の子。公園のかげを切り取ったシルエットを順番に貼り、2歳の妹さんがわかるようにと1つずつ平仮名で説明を添えるお姉ちゃん。それぞれのペースで、1冊できるまで黙々とつくり続けていて、お父さんやお母さんも驚いていました。

子どもたちでいっぱいのアトリエスペースを気遣って、大人の参加者の方は子どもたちに席を譲って、段ボールで拡張されたスペースや横の木の下で制作してくださったり。展示していた「掌の記憶」や手製本を丁寧に手にとってくださったり。小さな思いやりにも助けられた1日でした。

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途中からは「じゃばら豆本と一緒にすべり台をすべる」という謎の遊びも流行りだし、アトリエの少し先にあるすべり台から「いくでー」「みててなー」の掛け声とともに、流しそうめんのようにじゃばら豆本がすべっていました。豆本に続いて作者がすべってきて、豆本もじゃばらだったり、閉じていたり。何だかずーっと賑やかで、結局アトリエをたたむタイミングがなく日暮れまでいました。

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一番長い時間アトリエに居てくれた女の子。最初に本をつくりに来た時は、今飼っているという小鳥の絵を表紙に描いて、小鳥への想いをぽつぽつと教えてくれながら本づくりをしてました。

結局その時は、4ページくらいつくっておしまいに。でも、しばらくするとまたアトリエに戻ってきてくれて、いつの間にか続きをはじめて完成。そのあとも何度か戻ってきてくれて、横に座ってさっきつくった本のおはなしを5通りくらい読んでくれました。

何だかたのしくなってきたのか、最後には本の裏側に、虹色の色鉛筆でその小鳥が見る夢のおはなしを創作。1ページずつ描きながら、おはなしも聴かせてくれながらの完成。描き終えてからも、その虹色のおはなしも2回読んでくれて、笑顔で「また来年ね!」と手を振り本を持ち帰ってくれました。

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「掌の記憶」を読んでくれていた女の子

普段、商業施設や公共施設などからご依頼いただく時は「ワークショップ」のかたちでご相談をいただくことも多いのですが。大半が1~2時間程度の限られた時間内で、つくれる範囲のものを完成させるという枠をつくる必要が出てきます。

でも、もし今日の本づくりがワークショップという限られた時間だったら、女の子の虹色のおはなしは生まれなかったと思います。

時間内に表現が生まれるように、引き出す技術を身につけることももちろん1つの方法。でもわたしは、今日のアトリエのように、ただ一緒に居る「ひととき」を贈ることや、そこから生まれるものをただ見つめることがたのしくて大切なんだなと。一緒に本づくりをたのしみながら過ごした時間、子どもたちの本づくりの様子から、改めていろんなことを教わった1日でした。

2018年の11月は、静岡でひらいた「記憶のアトリエ」からはじまり、企業研修でがんの体験談とワークショップが組み合わさったプログラムに関わったり、「いのちの物語をつむいで」の展示と講演会があったり。そしてこの野点。がん経験後の体力を考えると体調面で不安もありましたが、お約束していたものは守ることができ、ほっと一息。今週はしっかり休んで回復して、週末は国立がん研究センターの「患者・市民パネル」の集まりで東京へ伺います。

11月に出会い、語り合い、お世話になったみなさんとの時間を振り返りながら、2018年を良いかたちで終えられたらなと思います。

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