【Report】「記憶のアトリエ」in 静岡

2019年6月8日(土)10:00~16:00まで、 静岡県富士市の病院に隣接する場所で「記憶のアトリエ」をひらきました。

病院で治療を受けられている方々や、地域のがん患者さんやご家族、ご友人が過ごすことができるこの場所は「訪れた方が大切にできる場所でありたい」という想いのもと、がんになり孤独や戸惑いの中にいる患者さんや家族、ご友人が気軽に訪れ、安心して話ができ、自分の力を取り戻せる場所として毎週水曜日にオープンされています。

ヨガやアロマテラピー、カフェ・デ・モンクなどさまざまな専門性を持った方を招いたプログラムも開催されていて、わたしは執筆していた日本看護協会出版会さんのWebメディア「教養と看護」の連載「まなざしを綴じる」で紹介していた記憶を綴じるZINEづくりの取り組みに興味を持ってくださった看護師さんからのお声がけで、来訪された方々が本を読んだりつくったりしながら過ごすことができる本づくりの移動アトリエ「記憶のアトリエ」をひらいています。

3回目の開催となる今回も、前回のアトリエから今日まで毎週水曜日に積み重ねて来られた時間を一緒に辿りながら。半年に一度の訪問だからこそ、この半年で育まれてきたものや今回のアトリエをたのしみにしてくださっている方の想いをじっくり教えていただく。この時間はとても大切な時間です。

同じ建物にある病院の訪問看護ステーションの看護師さんも覗いてくださり、うれしい再会も。病院の先生も覗いてくださり「明日は土曜日だし、入院中の方にも声をかけてみよう」とご提案くださり、看護師さんが追加印刷してくださった案内フライヤーを持ち帰ってくださいました。

みなさんのちょっとした一声やひと添えから、さまざまな職種のみなさんが患者さんやご家族のことを考えておられることを感じながらの設営でした。

今回も、あたたかな光が射す大きな本棚の前を本づくりの空間に。本づくりの道具や素材を並べて、アトリエ開催中は自由にみなさんのペースで本づくりを体験していただける場が広がりました。

奥の空間は誰かの“大切な記憶”が綴じられた本を並べて、ゆっくり過ごすことのできる空間に。展示の什器も、本棚の棚板や収納ケースなどその場にあるものをお借りしながらアトリエを設えてゆきます。

3回目の開催ということもあり、前回や前々回にお越しくださった方もいらっしゃれば、ようやくタイミングがあいお越しくださった方も。うれしい再会や新しい出会いがたくさんありました。10時のオープンから途切れることなく、みなさん本に触れたりおはなしをしたり……今までで一番あっという間の1日だったように思います。

本づくりに参加してくださった方も多く、15冊の『yohaku』と2冊の豆本に、みなさんそれぞれの「大切にしているもの」が綴られてゆきました。みなさんのペースで、区切りの良いところまで。それでもそれぞれの色や記憶でした。その中から少しだけ、写真におさめた記憶をご紹介します。

テーブルに並んだ素材から、アトリエにあった色とりどりの小さな紙片をあつめて、ガーランドを作っていらっしゃった方。娘さんとの思い出を綴じるための1冊として、表紙を丁寧に仕上げて持ち帰られました。

お帰りになったあとに残った綺麗にまとめられた紙片と可愛らしい文字のあと。丁寧につくられた時間は、そのあともうつくしいのだなと。アトリエにいたみなさんと見つめながら、そんなことを語り合いました。

ワークショップをたのしみにお越しくださり「大切にしているもの」を見つめなおして原稿の準備もしてくださっていた方。

きっと時間をかけて掬い上げてこられたのであろうことばたちが、1ページ、また1ページと本の中へ綴られてゆきます。その迷いのないリズムと、表紙に添えられた『WATASHI』というタイトルにぐっとくるものがありました。

アトリエには、今まで開催した町のみなさんからいただいた「記憶の欠片」もたくさんあります。季節の微笑みが浮かぶ小さな草花の押し花。昨年いただいた木の葉もハートの型抜きで抜いて、世界でひとつの色とりどりのハートになっています。

たくさんの記憶の欠片から、みなさんの記憶と重なる一輪、一片を選びながら。持ち寄ってくださった大切なことばや思い出のお写真と一緒に綴じてくださっていました。「わたしにとっては、これが大切なものだなって」綴じられた記憶とみなさんの声に、それぞれの想いを感じます。

「もし完成したら、また見せに来てくださいね」いつか本の余白に綴られるみなさんの“大切にしているもの”を想像しながら、そうお声がけして声を交わすひとときは、何にもかえがたいものがあります。

お越しくださってからしばらくは、奥のスペースで本を読んだりおはなしされたりとゆっくり過ごされていたみなさん。本づくりの空間に座られたきっかけは何だったのでしょう?はっきりとは思い出せませんが、思いがけずのご参加ながらみなさんそれぞれの1冊を綴られていました。

ご家族それぞれへのメッセージなのだと、イニシャルを添えた小さな封筒を表紙に浮かべていらっしゃった方。アトリエの素材を丁寧に見つめながら、1ページずつ紙の色を変え、組み合わせる素材を直感で選びながら、宝箱のような本を綴じられていた方。

押し花と紙片と手紡ぎの糸を使って小さな花束をアレンジしながら、遠くの町で暮らす娘さんへの贈り物にすると教えてくださった方。黙々と制作されている様子を遠くから見つめてみたり、時々ふっと、大切な記憶に触れさせていただいたり。どちらの時間からも感じることがたくさんあります。

「◎◎先生に教えてもらってね」「わたしは△△先生にこんなんあるよって聞いてね」と、前日に病院の先生が持ち帰ってくださったフライヤーを片手に、入院中の方も数名お越しくださいました。

「ちょっと気分転換に」と、みなさんが本づくりをされている様子を眺めていらっしゃった方。「せっかくだから家族に贈る本を綴じようかしら」と本づくりをされていた方。親、子、孫のご家族3世代でお越しくださり、それぞれの本づくりをたのしんでくださったご家族もいらっしゃいました。

みなさんのおはなしや表情から、先生と患者さんが築かれている関係も感じながら。治療中の方もそのご家族も、治療から少し離れた場所で、ひと息ついたり自分のことを見つめたり、同じ空間で一緒にたのしんだりという時間が流れていました。

昨年のアトリエにお越しくださり、その後もお住まいのある山梨に咲く季節の草花を押し花にしてお贈りくださっていた訪問看護師さん。1年ぶりにアトリエにもお越しくださり、今回も丁寧に押し花にしてくださった春の草花をたくさんくださいました。

アトリエに届いてすぐ本に綴じられていった押し花も。ある人が持ち寄ってくださった記憶が、別の人の大切な記憶と重なり本の中へ。その様子を見つめることができるアトリエの時間がとても好きです。

アトリエが終わる頃には少し落ち着き、スタッフのみなさんも本づくりを体験されたり、ご家族へ小さなお手紙を綴られたり、それぞれ今日の記憶をおさめていらっしゃいました。

そんなこんなで、今回もたくさんの方がお越しくださりあたたかなアトリエとなりました。お越しくださったみなさま、そしていつもあたたかく迎えてくださるスタッフのみなさま、アトリエ用に押し花やマスキングテープなどをくださったみなさま、本当にありがとうございました。

病院では、独立型の緩和ケア病棟の建設もはじまっているそうです。病院、訪問看護ステーション、緩和ケア病棟……そしてこの場所で。患者さんもご家族も、地域で暮らすみなさんがそれぞれが大切したいことをともに見つめ、その人らしく生きることに寄り添う場が整いつつある。そして、そんな場でアトリエを継続してひらきながら、みなさんの記憶と声に触れる機会をいただけていること。本当に有り難いことだなと感じています。

次回のアトリエは、11月9日(土)に開催予定です。その時にまた、お会いできることをたのしみにしています。

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