【Report】「記憶のアトリエ」in 富山

2019年8月17日(土) 富山県内にあるお家で、1年ぶりの「記憶のアトリエ」をひらきました。

向かったのは、立山連峰が遠くに見える「音川」というのどかな集落。とやまの木にこだわり建てられた、温かくて明るいお家です。昨年の夏休みに続いて、今年も大阪からトランクを抱えて伺いました。

このお家で暮らすご家族との出会いやささやかに続いてきた交流は、1年前にひらいた2018年のアトリエのレポートに綴っています。 昨年のアトリエをひらいたあと、どんぐりや紅葉と一緒に届いた「みっちゃん、またきてね」のメッセージを胸に、この夏もやってきました。

今年もアトリエのあとはお庭で夜までBBQをして、夜空を眺めながら焚火を囲んで。集まったみなさんも一緒に、遊んで食べて話して。そんなひとときを過ごしました。

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「こんにちはー」と扉を開けて、最初に子どもたちが持ってきてくれたのは、小さなじゃばらの手製本。紅葉を贈ってくれたお礼に「好きなものを綴じてね」と昨年末にお贈りしたものでした。

「どんなおはなしかな?」と声をかけると、お姉ちゃんと弟くんそれぞれ、1ページずつ本のおはなしを聴かせてくれました。そこに綴られていたのは、この夏、お母さんが好きな立山に一緒に登った日の記憶でした。

同じ日の記憶だけれど、お姉ちゃんと弟くんそれぞれのまなざしで綴られていて。お母さんが見守る場所に、お花と一緒に大事に飾られていました。

普段は地域にひらかれた場所でひらくことが多いアトリエですが、音川のアトリエは家族が暮らすお家の中。集まる人も親戚や友人、近所にお住まいの方々です。家族の記憶とお家の雰囲気を大切に、いつもよりももっとささやかなアトリエになります。

1階奧の静かな和室には、家族の記憶がつまった本を並べて、本に綴じられた記憶と静かに触れていただけるように。昨年も並べた本もあれば、この1年の思い出を綴じたフォトブック、昨年のアトリエでみなさんが綴ってくださったメッセージが綴じられた手製本もありました。

手前の大きなダイニングテーブルは、昨年同様わいわいと本づくりがたのしめるアトリエスペースに。今年はみなさん午後からお越しになることになり、午前中は家族のみなさんとのんびり過ごしました。

音川のアトリエを一緒にひらいているなおみさんは、4年前「ZINEワークショップをしてみない?」と初めて声をかけてくださった方。当時はひとりで黙々と本を綴じていたわたしが、誰かと「一緒につくる」ワークショップをひらくようになったのは、なおみさんの一声があったから。ZINEワークショップをひらいていなければアトリエがはじまることもなかっただろうなと。そんな大切な友人です。

音川で生まれ育ち、国内外のさまざまな場所で、エコツアーのガイドとして「一緒に体験する」時間をひらいてきたなおみさん。子どもたちと関わるお仕事もされてきたご経験もあり、何より子どもたちのご近所さん。子どもたちもたのしそうです。わたしもいつも安心して伺うことができています。

昨年子どもたちが贈ってくれた、音川の紅葉。「ハートにしたんだよ。これが銀杏でこれが紅葉…」と見せると、どこからともなく型抜きが出てきました。

かしゃんと押すと葉っぱが汽車に。アトリエに残っていた紅葉を抜いたり、お庭から葉っぱを拾って摘んで抜いてみたり。しばらくは葉っぱ汽車の制作に。

「〇〇ちゃんはまだぁ?」「まだかなぁ?」「△△ちゃんはまだぁ?」「まだかなぁ?」午後から来てくれるお友だちの名前を呼びながら、みんなで首を長くしていました。

今年も本づくり。弟くんが手にとったのは、昨年と同じでやっぱり虹色の豆本。今年はページの色に合わせて、クレヨンで絵を描いていました。

お姉ちゃんはお母さんが集めていたシールやマスキングテープが詰まった宝箱を出してきて、アトリエにあるものと組み合わせて何冊も。どれも小さな物語になっていました。太陽さんが奏でた音楽がいろんな生き物に届いてゆく豆本がとっても可愛いかったです。

そうこうしていると、お姉ちゃんが棚の奥からファイルブックを引っ張り出してきてくれました。昔つくった小さな本や、お母さんがくれたお手紙や折り紙の人形。ファイルからだしては「かわいい」と笑顔になって、ひとつずつお母さんのメッセージを読み上げながらみせてくれるその声からいろんなことを感じます。

一声一声を受けとめながら、記された日付とメッセージを心に刻みながら。その小さな贈り物の記憶を、一緒に見つめたひとときでした。

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お昼は夏野菜カレー。お庭で獲れたお野菜と、ご近所さんからいただいたお野菜がたっぷり。みんなで食べながら全部で何種類か数えたけれど、いくつだったかな。玉ねぎ、茄子、ズッキーニ、パプリカ、人参、じゃがいも、らっきょう漬けも3種類…いや、もうちょっとあったような。とっても美味しかったです。

午後になると、昨年もお越しくださったみなさんがぞくぞくと。待ちに待ったお友だちたちがやってきて、子どもたちは大喜び。おもちゃやハンモックのある2階、3階へと子どもたちの笑い声が駆け上がっていきました。

大人のみなさんは、おはなしをしたり、ご家族のフォトブックを手にとったり、本を綴じてみたり。今年初めてお越しくださった方も合流して、ゆるやかな時間が流れていました。

子どもたちの笑い声が響く夏の海辺のように賑やかなアトリエですが、時々ふと凪になるような時間帯があって。静かに記憶に触れながら。

そのうち子どもたちもおりてきて、わいわい本づくり。閉じたりひらいたり、2階からぶら下げてみたり、飛ばしてみたり。今年もじゃばらの豆本が宙を舞っていました。

昨年アトリエにお越しくださった、お母さんのご友人。アトリエのあと制作されたという豆本を持って今年もお越しくださいました。季節の草花や、お庭で採れたお野菜を描いたパステル画。製本は、お渡しした豆本を参考にパートナーさんがしてくださったそう。

ご夫婦の共同制作で綴られた、暮らしの記憶。ご家族で日々の記憶を一緒に辿ったり、綴じたり。アトリエがそのきっかけとなる種をお贈りできたこと、そして記憶の花となった本を持ってきてくださっての再会がとってもうれしかったです。

アトリエの時間が終わると、みんなでBBQの準備。今年も音川にある「やまふじぶどう園」さんのワインを用意してくださっていました。昨年みんなで一緒に飲んだ「ときわすれ 2017」に加えて、今年は「ほしあつめ 2017」も。どちらも今から2年前、2017年の夏から秋にかけて収穫されたワインです。最後に、お母さんの名前が一文字入った果実で漬けた自家製のお酒を持ってきてくださり、みんなで味わいました。

子どもたちは、もぐもぐ食べて、また駆け回って、お風呂に入って、なぜか月明かりの下でカルタもはじまって……そんな笑顔を見守りつつ、大人たちはそれぞれの想いを持ち寄りながら、ひとつの火を囲んで味わいながら。満月の浮かぶ空の下、最後は静かに焚火を見つめて一日が終わりました。

次の日も、電車の時間までもうひと遊び。今年はお姉ちゃんがお父さんの大きなカメラを構えられるようになっていて、弟くんを撮ったりお父さんを撮ったり、一人前のフォトグラファーでした。わたしのことを撮ってくれた1枚もとっても素敵だったので、プロフィール写真に使わせていただくことに。7歳の小さなフォトグラファーから、とっておきのプレゼントをいただきました。

1年に1回やってきて、わちゃわちゃと記憶の欠片を広げてはじまって。陽のひかりから月明かりまで、めいっぱい浴びて過ごす音川のアトリエ。

毎年それぞれの想いを持ち寄って集まってくださる人がいて。一緒に遊んで、食べて、話して、感じて。

この文章には綴っていない、ことばにできない瞬間もちくさんあります。その時間も含めて「記憶」ということばでともにしながら、忘れずに抱いていたい。それがわたしにとっての「記憶のアトリエ」なのだなといつも感じています。

最後はみんなで駅まで送ってくださって「ありがとうね」「またね」と握手をして。変わってゆくもの、変わらないもの。これからもたくさんあるとは思いますが、その時々に感じていることを持ち寄って、語ったり触れ交わしたり。そんなひとときを積み重ねていけたらと思います。

そんなこんなで今年もお越しくださったみなさん、本当にありがとうございました。また来年、お会いしましょうね。

最後の写真はお父さんからいただいた「5年後の手紙」大事に本に綴じたいと思います。

次回のアトリエは宝塚で、夏休み最後の2日間、8月30日(金)と31日(土)の開催です。本と記憶とともに、静かにお待ちしていますね。

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