2020年6月27日(土)から7月19日(日)まで約3週間、大阪府豊中市の緑地公園駅そばにあるblackbird booksさんにて「記憶のアトリエ」-2020年夏、blackbird booksで-という小さな展示をひらいています。
blackbird booksさんは、わたしの町にある本屋さん。家の裏を流れる小さな川を遡り、風がそよぐ緑地を抜け、緩やかな坂道を上った先にある静かな本屋さんです。
がんの治療後から5年間。リハビリを兼ねて訪ね続けてきた、とても大切な場所でもあります。
blackbird booksさんで『汀の虹』という小さな手製本の展示をひらいたのは、2018年1月のこと。がんになってからの3年間の記憶を綴じた小さな豆本詩集で、売り上げはがんによる影響を受けた方々をサポートするNPOに寄付をするというチャリティーの展示でした。
それから2年。展示はひらかず、病院や地域で「記憶のアトリエ」という本づくりの移動アトリエをひらき、訪れたみなさんがご自身の記憶を本に綴じてゆくお手伝いを続けてきました。
病気や事故、災害…もしくは特別なことがなくても、突然に大切な何かを失うという痛みは、生きてゆく上で避けて通れないものです。誰しもが、何らかの「そのあと」を生きている。そんな一人ひとりの、声にならない想いをともに見つめるささやかなひととき。
静岡、富山、埼玉、兵庫、宮城、大阪…医療や福祉に関わる専門職の方、患者さんやご家族、ご友人からお声がけいただいてはトランクいっぱいに本づくりの道具を詰めて。あちこち飛び回っているうちに、がんになり丸5年が過ぎました。
「記憶のアトリエ」は、わたしにとっても大切な場所になっていました。これからはこの場所を守ってゆこう。この2年間アトリエで触れてきたみなさんの声や記憶を伝える展示をひらき、展示というかたちは一旦一区切りにしよう。
お世話になるなら、この数年をいつも支えてもらったblackbird booksがいいな。 またチャリティーのための展示に。店主の吉川さんに相談し、今回の展示が決まったのが昨年末のことでした。
半年後、こんなにも世の中が変わってしまうなんて…感染者も多く緊急事態宣言の対象となった大阪の町で、家にこもりながら思いを巡らせては、店主の吉川さんとメッセージを交わしながらの日々でした。悩みましたが「今在ることも大切にしよう」と、手製本は予定どおりお店に並べることにしました。そのことについて綴ったご案内の文章はここにあります。
そして、6月末から本と花の記憶をそっと置いている展示。できる限りの安心のために、今お店で続けていらっしゃる感染対策を守れるように。準備や案内を重ね、在廊という今まで大切にしてきた行為も控えています。
お一人おひとりお迎えできないのは残念ですが、それでも今できることをしようと、お越しくださったみなさまへのお手紙のような「2020年 夏、blackbird booksで」という未完成のZINEの原稿を、会場とWeb上に置くというかたちをとりました。
「会場に行くことはできないけれど…」と、Web原稿のパスワードを尋ねてくださる方。会場までお越しくださり、原稿を手にとり感じたことをメッセージにして残してくださる方。
対面でお会いすることはできていませんが、不思議と今まで以上に「会いに来てくださったのだな」と感じて胸がいっぱいです。
会場に残してくださっているメッセージは、お客さまと重ならない時間に本の整頓兼ねて伺い、手元で大事に読ませていただいています。
「会う」ということ「交わす」ということ、そんなことを改めて見つめる機会をいただいているような。みなさんのお気持ちに感謝です。
展示は7月19日まで。笑顔でお迎えできず残念ですが、その代わりに本と花の記憶を、blackbird booksさんへ託してお待ちしています。
あ・う【会う】
(デジタル大辞泉)
1 互いに顔を向かい合わせる。場所を決めて対面する。
2 好ましくないことに出あう。
3 立ち向かう。戦う。
4 ある時期にめぐりあう。
5 夫婦になる。
6 対する。向かう。