「生きる」を考えよう、語ろう

2017年9月25日、マギーズ東京で開催されたチャリティーイベント「生きる」を考えよう、語ろうに参加しました。日本看護協会出版会から今年の6月に出版された『「生きる」を考える』という本から生まれたこのイベント。Webマガジン「教養と看護」の連載でお世話になっている縁で偶然編集者さんから教わり、これは参加してみたいなと東京まで伺いました。

「生きる」「考える」「語る」とてもシンプルな言葉が3つだけ。若年性がんのサバイバーとして生きている私にとって、どれも日々欠かすことのない営みです。なのにこの3つの言葉がかけ合わさると、とたんにすべてが難しくなります。

サバイバーとして生きながらえながらも元通りには戻ることができず、申し訳なさばかりが積もる日々。誰しも死が訪れることの必然はとうに受け入れているけれど、友人知人の再発や病状悪化の報せを聴くたびに、別れを経験するたびに言葉にできないものが押し寄せ、心がぎゅっと握り潰される。手を合わせるたびに何もしてあげられなかったと後悔する。そんな心の揺らぎを言葉にできず抱えたまま、ずるずると引きずりながら日々生きているように思います。

誰しもが、それぞれに何かしら抱えているであろうこの「生きる」という言葉への葛藤。本に導かれてマギーズ東京という場に集う皆さんとなら、何かを語り、聴くということができるかもしれないと思い伺いました。

 

医療職、哲学者、宗教者、歌手などさまざまな立場から「生きる」と向き合う執筆者の皆さんの言葉が綴じられた本の鏡のように、会場にはご本人やご家族の立場で病を経験された方や、専門職として日々命と向き合われている方など、さまざまな方々が集まっていました。

第1部では「私にとっての“生きる”」というテーマで、マギーズ東京の秋山正子さん、ディペックス・ジャパンの射場典子さん、患医ねっとの鈴木信行さん、そしてJapan Academy of Integrated Careの長江弘子さんから「私にとっての“生きる”」についての言葉を聴き、第2部では「生きる」を考え語ろうというテーマで、参加者の皆さんが6~7人のグループに分かれての語り合いの時間。最後に全体で共有するというとても濃密な時間でした。

それぞれの立場から死と向き合い、それぞれの視点で生を見つめきた方々の語り。まなざす人の視点によってまったく違った言葉がはねかえる「生きる」という言葉に、どれだけ多面性があるかということを改めて感じました。あの場でお聴きした言葉のそれぞれは心の中に留めておこうと思うのですが……一つだけ忘れられない言葉があり、それだけここに記したいと思います。

「自分自身も“今を生きる”という心理状態でないと、お話を聴くことができない」という言葉。会の最後にマギーズ東京の岩城典子さんがおっしゃっていた言葉です。聴き手自身の「今を生きる」という心があってこそ、凍てついた語り手の心が溶け、ひらかれていく。その時に人は本当の意味で「自分が」生きることについて、言葉を紡いで語りはじめ、そして「自分で」考えることができるのだとはっとさせられました。

それは8ヶ月前、自分を、そして生き方を見失った一人のがんサバイバーとしてマギーズ東京を訪れ、語り、考え、自分なりの一歩を踏み出すことができた自分自身の経験とも重なるものでした。

そのような想いをもつ方々が迎え、受けとめてくださる場だからこそ、来訪者が語ることができる。ぽつぽつとこぼす語りに寄り添ってくださりやわらかな声の響きが、語り手の中から滲み出るあたたかな涙となって少しだけ力が湧き出る。それこそが空間を共にして語り、聴くことの力なのだなと思いました。この一年で5,000人以上の方々が訪れたというマギーズ東京。訪れた方々のあたたかな響きや涙の記憶を抱き続けているあの空間には、そこで時間を過ごした人の優しさの粒が一つ、また一つと積もっていっているような気がします。

そんなことを感じた「生きる」を考えよう、語ろうのイベント。一冊の本をきっかけに、そしてという場でかけがえのない時間を共にすることができ、本当に良かったです。ありがとうございました。

>>教養と看護  イベントレポートはこちら

ちなみにマギーズ東京では、来月10月10日で1周年を迎える節目に、チャリティー講演会やパーティーも開催されるそうです。私は今回行くことができず残念なのですが、がんであってもなくても、思いやりの環が広がっていくと嬉しいなと思います。

マギーズ東京1周年記念チャリティー講演会
◎日時:2017年10月9日(祝・月)19:00~21:00
◎会場:豊洲シビックセンター5階ホ-ル

HUG YOU ALL PARTY 2017
◎日時:10月10日(火)開場:19時 開会:19時30分
◎場所:八芳園3階「チャット」
※参加費・お申込み方法などの詳細はリンク先をご確認ください。

 

 

このページの内容