World Cancer Dayに寄せて

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2月4日はWorld Cancer Day(世界がんデー)だということを知ったのは、昨年参加した日本テレビの「生きるってスゴイ。がん新時代へ」という企画がきっかけでした。がんをとりまく現状や共に生きる人々を紹介するその企画。「私と、支えてくれたもの」というテーマで開催された写真展に、がん経験者の一人として参加をさせていただきました。

その頃はまだ、がんで失ったものを憂い、自分を見失い、霧の中にいた時期。豊洲にあるマギーズ東京を訪れたのも、がん経験者の一人として相談できる拠り所を求めてのことでした。マギーズ東京を立ち上げた同年代のがん経験者でもある鈴木美穂さんとの出会いもあり、その前向きな姿に背中を押されて初めてがん経験者として参加したのがその写真展でした。

写真展への参加を機に闘病前後のありのままの葛藤や感じたことを文章に綴ると、がんになる前から出会っていた友人や知人が、たくさんのメッセージを寄せてくれました。それまで蓋をしてきた、妊娠性絨毛がんという病のやりきれなさやAYA世代の経験者としての葛藤。ありのままをそっと綴るようになり、同じような葛藤を抱えたたくさんの方々とも出会い、語り合う機会にも恵まれました。

それからはあっという間の1年。闘病後から続けてきたZINEでの表現について「まなざしを綴じる」というかたちで連載の機会をいただいたり。雑誌『HUG』の「わたしを支えてくれた人」という特集に夫婦で取材を受けたり。マギーズ東京で開催されたチャリティ・イベント「生きるを考えよう、語ろうのレポートにメッセージを寄せる機会をいただいたり。大阪府のがん診療拠点病院のがん患者サロンでもがん体験者としてボランティアをはじめたり。一つひとつは小さな点ながらも、少しずつ、一つずつつなぎなおしながら弧を描くことができた1年でした。

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豆本詩集『汀の虹

世の中を見回しても、「がん」とりわけAYA世代にまなざしが向けられる機会がぐんと増えたように感じます。そんな中、私に何ができるのか。昨年の夏から約半年をかけて準備してきたのが、豆本詩集『汀の虹』の制作と展示でした。自分自身のがんを経験した3年間の記憶を軸に、がん経験者やご家族も含めたさまざまな方々から預かった声を重ね、がんを告知されてから闘病、寛解後の葛藤も含めた“経験者の心の揺れ” を28 篇の詩にし、チャリティーブックとして制作した『汀の虹』。詩集の売上は経費を除いた全額をがん経験者への相談サポートを続けるNPO 法人へ寄付することを目的に、昨年10月に兵庫のみつづみ書房さんでお披露目会を開催させていただきました。その後、大阪の「ZINE DAY OSAKA vol.3」へ出展。委託出展というかたちで宮崎の「zine it! vol.8」京都の「三条富小路書店8」も巡り、手にとってくださった方々とたくさんの言葉を交わしました。

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michi-siruve exhibition「汀の虹」(2018.1.16-28 @blackbird books)

そして2018年1月、大阪府豊中市にあるblackbird booksさんで展示販売させていただきました。闘病後からリハビリを兼ねて通い、ここで出会った本と花、そしていつも迎えてくださるオーナーご夫妻に生き直す力をもらっていた大切な場所。若年性がん経験者の一人として、自分が暮らす町で語り合うひとときを持つことができたら…そんな小さな想いがたくさんの方々のお力添えでかたちになり、本と花とともに生きることについて語り合うひとときを過ごすことができました。

わたしの経験はほんのひと欠片でしかなく、できることもほんの僅か。でも確かに出会い、言葉を交わした一人として、いつかその人に何かつらいことが起きてしまった時、思い出してもらえる一言や光景を届けられる一人でありたい。そんな想いを強くしたひとときでした。『汀の虹』の販売と展示は、自分ができることの一つとして、これからも縁のあった場所で静かに続けていきたいと思います。

日本テレビの「生きるってスゴイ。がん新時代へ」は今年もさまざまな特集が組まれ、今年は写真展ではなく「がんになって見つけたコト」というインタビュー動画がテレビとWebサイトで公開されています。今回は個展と重なり参加はできませんでしたが「わたしが見つけたことは何だろう?」と振り返りながら、毎日おひとりおひとりの声を聴いています。

ちなみにわたしが「がんになって見つけたコト」は“言葉の重み”かなと。闘病でボロボロになっていた頃、自分に向けられた言葉、街中やSNSでふいに飛び込んでくる些細な一言が心に刺さり、塞ぎこんだことが何度もありました。そしてそれ以上に、今までの人生で力をもらった言葉に救われ、めいっぱいの思いやりでそっと届けられた一言に励まされ、たくさんの言葉を握りしめながら自分が紡ぎ直した言葉に生き直す力をもらいました。たった一言。その一言の“言葉の重み”こそ、わたしががんになって見つけたことです。

この3月で、がんを告知されたあの日から4年が経ちます。がんになって良かったとは今でも言えませんが、あの一言で失ったもの以上に受け取ったものに力ももらい、今のわたしがいます。だからこそ、僅かでも、少しでもお返ししていきたい。そんな思いで、これからも一つずつ積み重ねていきたいと思います。

たった一言で
うれしくも
かなしくもなる

たった一言で
しあわせにも
ふしあわせにもなる

たった一言で
絶望の淵に追いやられ
未来を失ったこともある

抱えきれないほど
重い一言は
せめて足元におろして

両手はいつも
自由にあけておこう

いつか
新しい一言を
描くために

(「たった一言で」 / 『汀の虹』一.深淵)

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