『5年後の手紙』~5年の節目に綴じる、小さなことばの花束~
2019年5月、がんになって5年の節目に小さな文章を置きました。「5年後の手紙」という文章でした。
(文章より)
そんな今、この節目に綴じたい本があります。本の名前は「5年後の手紙」。今から5年後に贈る手紙ではなくて、あの日から5年後に届く手紙。それを5年の節目に綴じる、小さなことばの花束のような本です。
その「ことば」とは、この5年で綴じてきたような「わたしのことば」ではなく、わたしのまわりにいる「あなたのことば」です。
若くしてがんになったひとりが、5年という月日を生きてきて。そのまわりで見守ってくれていた人、その途中で出会った人はどんなこと感じてこの5年を生きていたのだろう?その心の声に触れることのできる、小さな手製本を綴じたいなと思ってます。
この文章を読んで何かことばを浮かべてくださったみなさんが、この半年でお手紙をくださいました。一通一通大事に受けとり、綴じ方を考えること半年。ようやく綴じることができ、お返事として小さな手製本とお礼の手紙をお送りしました。
Webにも、手製本の写真とお手紙の文章を置いておきます。
「5年後の手紙」をお贈りくださったみなさま、本当にありがとうございました。
この「5年後の手紙」を呼びかけたのが、2019年の春。わたしが絨毛がんに罹患して5年目を迎えた頃でした。がんになる前から出会っていた方、なった後に出会った方。がんの経験が身近にある方、まだない方……さまざまな方々からことばが届きました。
いただいたお手紙はまとめて1冊の手製本に綴じました。1通1通のイメージに近い封筒を仕立ててお手紙を仕舞い、そのお手紙からことばをひとつだけ抜き出して、封筒の表には小さなことばの花束にして添えています。
ことばのフォントは、みなさんの筆跡に近いものを。封筒のデザイン、花束の色、フォント、お一人おひとり違っています。
封筒の中身はわたししか読めないようになっていて、ことばの花束はどなたでもご覧いただける1冊だけの手製本。今みなさんがひらいてくださっているのが、その手製本と同じ本です。封筒は何かを仕舞ったり、お手紙にしたり、ご自由にお使いください。
ことばの花束だけミニブックにしたものも、次の封筒に仕舞っています。ことばの順は、届いた順番そのまま。お手紙のお礼として、ささやかながらお贈りします。
花束のことばは、わたしが綴ったひと連ねの文章を読んで、どなたかが贈ってくださった文章の中の、ちいさな一片です。
何かを経験したとき、感じたとき、心に浮かぶ想いは人それぞれで。とても全部はことばにできなくて。そんな中で綴ってくださったことば。きっとそのことばから感じることも、人それぞれなのだと思います。
もちろん、それを伝えるのも思いやり、伝えないのも思いやり。でも、感じたことを「ことば」で伝えてみるということからはじまるもの、芽生える理解というのも確かにあるような気がしていて。
気持ちを知ることで理解につながるのはもちろん、また次に同じような状況になった人へ届ける声につながる。そのひと声が、一人ではことばにすらできないようないたみを抱えた誰かの孤独を和らげる一つの助けになるかもしれません。
また、想いをことばにして誰かに手渡すことは、受けとった相手の心の辞書を豊かにする一つの種にもなると感じています。一人ひとりの心の軌跡やグラデーションを「ことば」を通して知ることは、心の辞書を豊かにするひとつの方法なのかなと。
そんな小さなことばを交わしながら、分かち合い難い「一人ひとりの経験」をわからないなりにも心の辞書に加えてゆくことは、一人ひとりがこれから生きてゆくこと、誰かと生きてゆくことの助けになると信じています。
この「5年後の手紙」の制作をとおしても
わたしの心の辞書のグラデーションはまた一つ深まりました。
そんなことばをくださったみなさんに、感謝の気持ちをこめて。この小さなことばの花束をを贈ります。
これからも、いつまでも、よろしくお願いいたします。
2019年12月15日 藤田理代 (michi-siruve)
「5年後の手紙」はがんになってからの5年間、まわりで見守ってくれた10人が、5年の節目に贈ってくれた小さなことばの花束です。
届いたことばをそのまま綴じた本当に小さな花束ですが、不思議なことばのつながりや響き合いが生まれて、そのことばから感じるものがたくさんあります。
この5年の感謝の気持ちをこめて。綴じた手製本は「記憶のアトリエ」で展示します。「まわりで見守る人」のことばに触れる貴重な1冊。手にとって、みなさんの感じたことを聴かせていただけたらうれしいです。