【Report】「記憶のアトリエ」 in 静岡

2019年11月9日(土)10:00~16:00まで、 静岡県富士市の病院に隣接した場所で「記憶のアトリエ」をひらきました。

病院で治療を受けられている方々や、地域のがん患者さんやご家族、ご友人が過ごすことができるこの場所は「訪れた方が大切にできる場所でありたい」という想いのもと、がんになり孤独や戸惑いの中にいる患者さんや家族、ご友人が気軽に訪れ、安心して話ができ、自分の力を取り戻せる場所として毎週水曜日にオープンされています。

ヨガやアロマテラピー、カフェ・デ・モンクなどさまざまな専門性を持った方を招いたプログラムも開催されていて、わたしは執筆していた日本看護協会出版会さんのWebメディア「教養と看護」の連載「まなざしを綴じる」で紹介していた記憶を綴じるZINEづくりの取り組みに興味を持ってくださった看護師さんからのお声がけで、来訪された方々が本を読んだりつくったりしながら過ごすことができる本づくりの移動アトリエ「記憶のアトリエ」をひらいています。

今回も、スタッフさんから前回のアトリエから今日まで利用者のみなさんと積み重ねて来られた日々のことや、今回のアトリエをたのしみにしてくださっている方のことを伺いながら設営へ。

半年に一度の訪問だからこそ、この半年で育まれてきたもの、そして今回のアトリエをたのしみにしてくださっている方の想いを感じて場を設えみなさんをお迎えできるように。この時間を大切にしています。

建物の向かいでは、病院の独立型の緩和ケア病棟の建設もはじまっていました。今ある病棟、独立した緩和ケア病棟、そして隣接したこの場所で患者さんやご家族の人生とともに歩むかたちが来春には整うそうです。

本棚の向こうは病院の訪問看護ステーションの事務所で、2階には看護師さんの休憩スペース。この広い空間は木のぬくもりとあたたかな陽のひかりに満ちていて、外の音は聴こえないくらい静かで、入るだけでいつもホッとします。

今回も本棚の前の大きな木のテーブルを本づくりの空間に。本づくりの道具や素材を並べて、アトリエ開催中は自由にみなさんのペースで本づくりを体験していただけるようにしました。

奥の空間は、誰かの“大切な記憶”を綴じた本を並べて、ゆっくり過ごすことのできる空間に。展示の什器も、本棚の棚板や収納ケースなど、その場にあるものをお借りしながら本を並べています。

この空間でくつろいでいらっしゃる方に、わたしからお声がけすることはあまりないのですが。それぞれに何か大切な記憶を感じながらお過ごしくださっている様子を、いつも遠くから見つめています。

前回のアトリエに参加してくださった山梨の訪問看護師さんが、季節の押し花の贈り物を預けてくださっていました。

包みを広げると、色とりどりの野花がたくさん。花の美しさはもちろん、そのお気持ちがうれしくて。早速アトリエの机に並べて花畑に。お越しくださったみなさんを笑顔にする小さな花畑とともに、10時のオープンを迎えました。

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10時を少し過ぎた頃、通院前に立ち寄ってくださった方がお一人目。お話しているうちに、通院・入院中の方や地域の方、そしてアトリエに関心を持って遠方からお越しくださった方があちこちに。

それぞれに本を手にとったり、ゆっくりお話をされたり、本を綴じてみたり。日常よりも少しだけ深いところを見つめる静かな時間が流れます。今回もみなさんが制作された本の様子をご紹介しながら、アトリエに流れる時間を少しでも感じていただけたらなと思います。

ご両親と娘さんで一緒にお越しくださったご家族。普段から絵を描くことが大好きだという娘さんがアトリエに並んだ画材やガラスペンを試しながら、どんどん本の物語を綴られていました。

ご両親も一緒にテーブルを囲んで、本づくりの時間。娘さんが描いたインコに、お父さまが試し描きされていたスイスのクレヨンの色を重ねてみたり。アトリエで過ごした記憶が、そのまま本の中に綴じられていました。

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前回前々回のアトリエにもお越しくださり、大切な記憶を本に綴じてくださった方。お母さまが近くにお住まいで、お庭の花を摘んで素敵な花束を持ってきてくださいました。

看護師さんが花器に移してくださっている様子を見ているうちにうっかり写真を撮り損ねてしまったのですが、上品な秋の花がふわりと広がる花束でした。

今回は少しだけ用意していた豆本に、ガラスペンでイラストを描いてくださっていました。次のご予定があり、綴られた本をじっくり見せていただくことができなかったのですが……心も体もあたたまるスープの記憶の1ページだけ、撮影させていただきました。

第1回目の「記憶のアトリエ」で本づくりに参加してくださった方。今までの人生で出会った大切な人の記憶を本に綴じてくださいました。その時に綴じた本は本棚へ寄贈してくださり、いつもお越しくださった方にご紹介されているそうです。

1年半ぶりの再会を喜びながら、おはなしをしながら。大阪で一緒に「記憶のアトリエ」をひらいた紗輝ちゃんがプレゼントしてくれたイラストを見つけて「とってもかわいいね」と、1つ1つ丁寧に選んで豆本にしてくださいました。

パートナーさんに似ているというイラストを交えて、豆本の中に四季折々を。出来上がった豆本の写真をイラストを描いてくれた紗輝ちゃんにも送ると、とても喜んでくれました。大阪と山梨、離れて暮らすお二人の記憶が、静岡のアトリエで重なったこと、わたしもとてもうれしかったです。

「お母さん、きっと好きだから」と、お母さまとお父さまとお越しくださった娘さん。娘さんが前回のアトリエを覗いてくださり、今回ご両親と一緒にお越しくださいました。

まっすぐ本づくりのテーブルにお越しくださり、娘さんがお母さまに本づくりの説明をしてくださいました。

「いいわねぇ」というお母さまの笑顔で、本づくりを体験されることに。娘さんが隣に座り、お二人を見守るように斜め向かいにお父さまも腰をかけ、テーブルの上にならんだ画材やシールを手にとりながら、お母さまのご希望を尋ねながら本づくりをされていました。

「こんなのもあるよ」「あんなのもあるよ」と、アトリエの彩りをお母さまの手元に広げながらやさしく声をかける娘さんに「これにしようかな」とお母さまが笑顔で応えます。

シールの山からお正月のものを選んで門松を描かれたり。列車がとおる花畑を描かれたり。本づくりをしながら交わされるやさしい声と笑顔に触れ、その場にいたみなさんにも笑顔が広がっていました。

姉妹でお越しくださった方。しばらく奥のスペースでゆっくりお過ごしされていました。妹さんが先に参加してくださり、あとからお姉さんも隣にお越しになり、お二人でご参加くださいました。

「大切にしているもの」を考えるのは中々難しいと心配されていたのですが、テーブルの上にならんだ色とりどりの記憶の欠片を手にとるうちに、少しずつ表情も緩んでたのしんでくださいました。

何もないところから考えるというのはとても孤独で大変な作業ですが「アトリエにお越しくださるみなさんへ」と寄付してくださったたくさんの記憶の欠片に触れるうちに、お越しくださった方々の記憶の中にある「大切」が浮かんでくるという瞬間に何度も立ち会うことがあります。これはわたし一人ではとてもできないことで、気持ちを寄せてくださるみなさんがいらっしゃってこそだと改めて感じました。

お帰りになる頃にはそれぞれに選ばれた色とりどりの記憶を手に持ち、お越しくださった時よりも緩やかな笑顔のお二人をお見送りすることができました。その笑顔の変化に、うれしい気持ちでいっぱいになりました。

「記憶のアトリエ」のことを知り、遠方からお越しくださった方。奥のスペースに展示していた、大切な記憶を綴じた豆本「掌の記憶」1冊ずつじっくり読んでくださっていました。

本づくりのテーブルにお越しくださった時、美しい羽根をおさめた小さな瓶を見せてくださいました。本に綴じるために持ってきてくださった、大切な小鳥の羽根。本当に美しくて、見せていただいたわたしも「いとおしいな」という気持ちになりました。

小さないのちとの別れは、ともに生きてゆく中でどうしても避けては通れないものですが、せめてそのぬくもりを大切な記憶として本に綴じて、ずっと触れることができたら……ふわふわとやさしいそのぬくもりの傍で本づくりをされている様子を見つめながら、「記憶のアトリエ」がそんな場所でもあれたらと改めて感じました。

午前中に本づくりをたのしんでくださったご家族がお戻りになり、本づくりのテーブルはいっぱいに。小鳥が大好きで将来「インコカフェ」をつくりたいという娘さんが『インコ図鑑』を綴っていました。

隣で小鳥の記憶を綴じてくださっていた方と一緒に、図鑑の中からこちらをみているインコたちを覗き込みながら……いつかカフェがオープンしたら遊びに行きたいな。その時まで、この『インコ図鑑』も大切にしていただけたらうれしいです。

他にも綴じてくださった本があったのですが、あっという間にアトリエの時間が過ぎてしまいました。それだけみなさんと交わしたものの多いひとときとなりました。

今回のアトリエもお越しくださったみなさま、そして設営から最後まであたたくサポートしてくださったスタッフのみなさま、本当にありがとうございました。

アトリエは、2020年も春と秋にひらかれる予定です。この2年で継続してお越しくださる方や、入院・通院中の方やご家族も飛び入りでご参加くださることも増え、少しずつアトリエが育ってきたことも感じています。

来年のアトリエは手製本の種類を増やして、少しずつ、よりいっそうお一人おひとりの「大切にしているもの」を見つめて綴じる場にできたらなと考えています。

また来年、本と記憶とともに伺いますね。これからもよろしくお願いいたします。

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